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 懇願する形で唇に噛みついた。  まだ明るい日差しが、畳の上で波のように揺らいでいるのがわかる。ちょろちょろと流れる外の小さな露天風呂の音が、微かに鼓膜の側を通り過ぎていた。まなうらの温かな色が、全てが、今の気持ちにそぐわなくて、焦ったい。  もっと酷くして欲しい。  そう思わずにはいられないほど、空気が穏やかだった。 「要、お願い……」  彼の薄い皮膚が作る頬を両手で包み、真っ直ぐ告げると、俺にばかり誠実な彼は、口を一の字に引き結び、 「知らねえぞ」  と、文句のような、けれどどこか喜色の滲んだ声音で吐くように呟く。  尻を割ってその奥にある穴に性器が当てがわれるのがわかった。ぬるりと濡れたそれが、くすぐるように押し当てられる。俺は両腕を要の背中に回して、彼の肩と首の窪みに顔を押し当てた。  いつも使ってる香水の匂いがこもるように香っていた。身体を巡る血に温められて立ち上る香りは、いつもより野生的に匂って、俺をくらくらとさせる。  ぐ、と腰を押し当てられると、だらしなく慣らされたそこがゆっくりと要を受け入れていく。初めは痛みを伴うが、性器が奥まで収まる頃には、俺の中はすぐに彼の形を覚えてしまう。いたい、と言わないように、唇を引き結んで、要にしがみついた。  彼の長い両腕が、俺の背中の肩甲骨や腰を押さえつけるように抱き締めてくる。 「あ、ぁ……っ、ん」  茹だる暑さが体の内側から湧き出すと、充足感に満たされた。圧迫感や息苦しさなど、取るに足らない事だと思えるほど、押し込まれたそれが愛おしい。肉体的な繋がりは、輪郭をはっきりと持っていて、それが痛みだろうが、快楽だろうが、なんであろうと、心地がいい。 「痛くねえ? ごめん」  知らない、と俺の痛みを無視するような台詞を吐いたくせに、結局彼の唇は優しい。啄むようなキスを繰り返しながら、痛くない、と微かな唇の狭間でつぶやく。  彼の黒く情欲に濡れた瞳の中に、欲情に熱った自分が映っていた。
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