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 太陽神殿を訪れた陽術師の正波仁(まさはに)は、妙に興奮した様子で切り出した。 「日奈神子(ひなみこ)様、私めは画期的な術を編み出しました。ぜひ、太陽神(たいようしん)様のお目に掛けたく」  太陽神様のお付きの日奈神子は、久しぶりに顔を見せた正波仁に、あからさまに訝しげな視線を向けた。  正波仁には前科があった。とはいえ、それは善意からのものだったのだが、彼の陽術で太陽神様が眠っておしまいになり、同時に陽世(ひのよ)は光を失うという大騒動に見舞われたことがあるのだ。  一度きりのことではあったが、その騒動に振り回され苦労した日奈神子としては、正波仁を太陽神様に近づけることを反射的に警戒した。 「正波仁、そなたの陽術に罪はありませぬが、おかしな騒ぎを起こされるのはもうこりごり。太陽神様にお通しする前に、この(わたくし)が話を聞きましょう」 「おお、ぜひに! 日奈神子様!」  正波仁は願ってもないといった調子で喜んだ。 「なんと、私めは世界を一枚の紙に写す陽術を会得しました」 「世界を紙に?」 「はい。まずはご覧に入れましょう。こうしてこの紙に……」  正波仁は懐から薄茶色の手漉き紙を取り出し、目を閉じて陽術をかけ始めた。  日奈神子はその様子を、胡散くささ半分……いや三分の二、期待三分の一で眺めていた。
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