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「出来ました」
差し出された紙に写し出されているのは、細面に筋の通った細い鼻、キチンと結ばれた小さな口、そして厳しそうな三白眼のつり目、額に巻かれた陽世の紋入りの赤い布、顔の両脇をするりと滑り落ちる艶めく真っすぐな黒髪――つまり日奈神子だ。
日奈神子はそれを一瞥し、
「世界を写すなどと大仰なことを言いながら……、何のことはない、私の顔ではないですか。そんなもの紙に写し取って何になると言うのです」
「日奈神子様、もっとご感動なされてくださいませ。日奈神子様のお顔が、こうして鏡以外のものに写ったのでございますよ!」
「それはわかりますが、だから何だと言うのです。そんなものが何の役に立ちますか」
「いいですか、これを私の術で……」
正波仁はその紙に手を翳しながら、更に念じた。
すると、その紙がみるみる五枚に複製された。
日奈神子はげんなりした。
「何の嫌がらせですか。私の顔をそんなに増やして、そなたは私を侮辱しておられるのか」
「とんでもないことでございます、日奈神子様!」
慌てて手を振る正波仁。
「これは大変画期的なことなのです。どうしてもっと喜んでくださらないのですか」
「いいや、勝手にこのようなことをされては敵いませぬ」
「そんなことを仰っている場合ではないのです」
「正波仁、そなたいつから私にそのような口をきくほど偉くなったのだ」
日奈神子はギロリと正波仁を睨む。
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