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「さようでございます。民の記憶というものは、かくも曖昧なものなのでございます。送念は複数の民を介して行われるうちに徐々に不鮮明になりますし、日奈神子様から直接受念しても、時が経つにつれぼやけていくのです。また、このように受け手の主観で美化されてしまうこともあります。そして、いつの間にか全く別人になっていたとしても、特に気づきもしないのです」  日奈神子はゴクリと唾を呑んだ。 「これは由々しきこと……。まさか、民達が太陽神様のお顔さえも正確に記憶しておらぬとは……」  自身の広報活動が不十分であったと、日奈神子は反省した。自分のように日々太陽神様を間近で見ている者と、稀に受念する範囲でしか知らぬ者との間に、かくも認識差があろうとは、考えもしないことだった。 「そこで、この術が役に立つわけです」  正波仁は日奈神子の肖像を広げて見せた。 「この術で太陽神様のお顔を正確に写し出し、複製し、各集落に配るのでございます。そうすれば、こちらが頻繁に送念せずとも、民達はいつでも太陽神様のお顔を見ることができるのです」 「なるほど、それは良きことだ」  太陽神様は豊かな髭を触りながら満足そうに頷いた。  日奈神子は正波仁の提案を受け、己の考えを改めることにした。 「よくわかりました。確かにそなたの術は役に立つようです。誤解してしまった無礼は謝ります。すまぬことをいたしました」 「いえ、恐れ入ります、日奈神子様……!」  こうして一件落着となり、正波仁は太陽神様のお顔を紙に写し取った。  その手法は、(まこと)を写すという意味で、「写真」と名づけられた。
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