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三
無事に暗黒神様の了解をお取りつけになった太陽神様は、正波仁を陰世へ派遣され、その景色を写真に写し取ることを試みられた。が、結論から言ってこれは失敗に終わった。
正波仁の目に映る陰世は、ひたすら真っ暗闇だったのである。
「まさかこんな結果になろうとは……」
正波仁が差し出した真っ黒な写真を見て、日奈神子は笑いを堪えながら言った。
「陰世民は、星明かりさえも届かぬ中で暮らしているのです。どうやら、我々が光のもと見ている景色が、彼らには暗闇の中でこそ鮮明に見えるらしいのですね」
「まあ何にせよ、そなたが初めて陰世の暮らしを覗いて来たことは事実。よくやりましたね」
「大儀であったな、正波仁よ」
「もったいないお言葉、至極光栄に存じます」
しかし、これでは民の期待には応えられない。真っ黒な写真を見せて「これが陰世です」などと言ったところで、誰が信用するだろう。むしろ信用されてしまっては、陰世への恐怖を煽るばかりである。
「となると、陰世が見えている陰世の者に、景色を送念してもらうしかなかろうな……」
太陽神様がつぶやいた。
「しかし、通念できるのは太陽神様と暗黒神様のみ。正波仁が直接受け取れない以上、正しく写し取ることは困難かと」
「それでは、こういたしましょう。私が太陽神様に、写真術をお教えいたします。そして、暗黒神様から受念された景色を、太陽神様ご自身で写し取られれば、鮮明な陰世を民達へ届けることができましょう」
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