悪友と髭面のオカマ

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篠田とは大学1年生からの付き合いだ。経営学部経営学科の同期で、最初の授業でたまたま隣の席だったのがきっかけだった。そこから同じサークルに入った。僕は半年間で3回しかゼミに顔を出さなかったのでクビになったが、篠田は4年間勤め上げた。僕らの学部は半年間はゼミに必ず入らなければならなかったが、適当に選んだ環境だかなんだかのゼミはやる気が起きず僕はそのままフェードアウトを決め込んだのだ。そんなやつはゴマンといると信じたい。 大学生だった僕らは4年間で色々な遊びをした。といっても殆どが夜遊びだったため、今でも悪友と呼ぶのはその名残だ。 篠田ともう1人の悪友、川上の3人でよく夜の街を遊び歩いたものだ。毎日酒を飲みに出かけては昼まで寝て、大学なんてほとんど行っていない時期もあった。特に川上は女好きで、2年生から3年生にかけての約1年間は必ずと言っていいほどナンパをした。 僕らは大抵池袋で終電間際の同世代の女性を口説いていたが、なぜか川上はかなり年上の女性ばかり狙っていて篠田と2人ではてなマークを浮かべていたのも懐かしい。道端でもお店でも駅の中でも節操無しに口説いたものだ。今の営業のトークスキルやメンタルもこのときの経験で培われたと言える。 川上は名古屋に転勤になりここ何年と会ってはいないが、連絡は取り続けている。もうそろそろ帰ってくるらしいのでまたナンパに誘われそうだが、篠田が結婚するのでもう無理だろうな。僕もそろそろ落ち着かなければ。 そんなような話をしていると、僕の席から2つ間を開けた入り口に近い席に荷物があることに気が付く。きっともう1人いるのだろう、トイレかな? 男物だから深く考えても意味無いな。 僕が頼んだ「いつもの」である芋焼酎のロックが届く。以前芋焼酎が好きだ、とぽろっと零れた時にマスターの好意で取り寄せてくれたものだ。 「そういやさ、お前の方はどうなんだよ。涼子さんといつ結婚すんの?」唐突に話題を変えられ少し困ったが、「いや、実は振られたんだよね、さっき。」と卑屈な笑いを浮かべる。篠田とトモミは先ほどの僕のようによく分からない声をあげており、なぜかそれが可笑しかった。「マジかよ、タイミング悪いな。」篠田が気まずそうに言う。それはこっちのセリフだ。「えー、何でですか?2人ともすっごく仲良さそうだったのに。」トモミからのんびりと追撃が来る。僕が知っている限りでは、「口が悪い」という理由だけであった。 曽祖父の代から東京下町育ちの僕の周りは、恐らくそうでない人から見れば口が悪いと思われがちである。育ちのせいにしたい訳ではないが、小さな頃からそれが普通であり、そういった言葉の中で育ってきたので簡単に治るものでもない。瞬間湯沸かし器は自覚しており、売り言葉には買い言葉的な所も少なからずあるとは思う。他にも挙げるときりがない。勿論仕事中は丁寧な言葉を心がけるし、あまり親しくない人にもそうするようにしている。だが、心を許した友や彼女にはどうしても素の自分が出てしまう。 大学の頃は平気で、社会人になってから急に指摘するようになった涼子は何を思ってのことだったのだろうか。 そんなようなことを話すと、篠田は「なるほどな。確かにお前口悪いもんな。」と華麗に流した後ハイボールを飲み干し「マスター同じのちょうだい。」とお代わりを頼んでいた。 さてはこいつ興味ないな。
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