追憶♯1

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追憶♯1

一生忘れられない笑顔がある。 いくつかあるうちのそれの、あの日の彼を考える。   本当にたまに、刹那的に。 今の暮らしは正直満足している。 稼ぎのいい夫、二人の息子がいてそこそこのマンションに住んでいる。二人は夫に似て聡い子だ。 毎日の家事育児は大変だけれど、専業主婦だし夫も積極的に参加してくれるので共働きの家庭より自分の時間は取れていると思う。 昔を懐かしく思うことがある。 でもそれは、彼とのことだけではない。 学校やゼミ、サークルの友達、バイトの仲間、働いていた時の同僚など様々だ。 それでも、本当にたまに、一人でいる時やリビングで家族団欒している時に、彼の笑顔が浮かぶ時がある。 それは走馬灯のように一瞬だけれど、流星のように尾を引く。 そのとき決まって、彼との数年間の楽しさや苛立ち、その他の雑多な感情を寂しさで包んだ、そんな気持ちになる。
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