借りたままの繋がり

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最近人気の失恋の歌など聞く気にはなれず、次の電車までまだ時間があったので駅を出て煙草に火を付ける。僕が愛煙しているピースのスーパーライトは、彼女が唯一好きな煙草の匂いと言ってくれたものだ。そんな事を思い出しても今更どうということは無いが。吐き出した紫の煙が星のない夜に消えてゆく。 "元"彼女に『家に着いたら連絡だけ欲しい。』とだけメールした。これは僕達の日課のようなもので、仕事なり遊びから帰ったら家に着いた報告をし合うのだ。僕は心配性で、彼女が何か事件に巻き込まれたりすることを恐れていたが故自然と生まれたものだった。未練がましいとは承知の上だが、最後の日課だけ果たしたかった。 二人で話し合って、「お互いのため」という立派な名目で別れを決めたのに。二人でこの問題の答えを出したはずなのに。僕はまだその答えの向こうに辿り着けていない。彼女もきっと辿り着けていないだろう。果たして辿り着けるのだろか。スタートラインから遠い位置にいる僕にはゴールテープはまだ当分切れそうにない。 この気持ちが僕だけでなく彼女も同じなら、僕達はまだしぶとく繋がれているのだろうか。 気がつくと煙草の火は消えていた。携帯には大学の同期で善き悪友の篠田から『お前、どうせ暇だろ?今から北千住来いよ!懐かしいヤツと会えたから!』というメッセージが来ていた。酒を飲む気にはなれなかったが、悪友からの久々のお誘いであったのでOKを出し、足早に改札へ向かう。現実に意識を向けたくない。今すぐここではないどこかへ逃げおおせたい。「こんな日は潰れるまで酒をあおって忘れちまうのがいい、そうに決まってる」と呪文のように繰り返し、なんとか言葉を飲み下す。 結局の所、男という生き物は弱い。 流石に主語が大きすぎるかな。 誕生日の丁度2週間前だし、少し早いけどあいつに盛大に祝ってもらおう。 そういえば彼女に借りてた本があったんだっけ。 あれ、どうやって返そうかな。
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