若さと情熱の賜物

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「ねぇ、クリスマスくらいどこか旅行したいなー」そんなことを聞いたのは、涼子と付き合い出してすぐの10月半ば、大学の喫煙所だった。 正直少し困った。僕は今までお付き合いさせて頂いた女性と旅行したことがないのだ。どうしたもんかな。 敷地の端にあるビルの屋上なので、周りを見渡すと昼寝している学生がちらほら目に留まる。ここは彼らのサボり場なのだ。僕らも例に漏れずここにいるのだが。 彼女は喫煙を良く思っていなかったので、そいつらに当てつけるようにわざと勢いよく煙を吐き出してみせた。風が強いので届くはずないけど。 「そうだねぇ、どこか行きたいとこある?」やる気なさそうに景色を眺めながら聞く。「温泉とかは来年行くとして、私中華街で食べ歩きしたいなー。そして赤煉瓦のライトアップを見てお洒落なイタリアンでも決めたいね。」「いいね、そうしよう!」プランを考える手間が省けた。ラッキー。 当日取ったホテルは中華街に面した歴史あるホテルであった。初めての赤レンガ倉庫は「なんだ、こんなもんか」。 恥ずかしながらそれまでナイフとフォークを使うコースの食事をしたことがなかったので、その日のディナーは涼子にバレないように見よう見まねで進めた。後から聞いたら、「あんなにしつこく手元見られたら嫌でも気付くわ!」と笑ってからかわれた。これをキッカケに練習を重ね、今ではなんとか見られるようになったと自負している。
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