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そう、僕達が暮らす王国の王様は、神様の暴走を察知するやいなやお触れを出している。即ち、神様を倒す勇者を出した家には、莫大な謝礼を出し子孫代々に至るまで特別な地位と名誉を与えるということを。彼らは王家の血が絶えることを恐れ、けして自分達で神様討伐を行おうとはしない――それは正直、情けないと思わないでもなかったが。
それでも、その支援があれば、家族が未来永劫お金に困らず生活できるようになるのは間違いない。
貧しい人々は尚更、その名誉に心惹かれて勇者を志すことだろう。例えそれが己の命と引き換えの、過酷な旅であるとしても。神様を討伐する以前に、聖なる鏡を手に入れることが途方もなく困難であるとしてもだ。
それは僕も同じ。
僕達の家は、お世辞にも裕福とは言えない。自分達の土地があり、畑があるだけスラムに住む人々よりは格段にマシだが。おじいちゃんが賢者として働いて引退前に築いた資産は、既に底を尽きかけていた。神様が大暴走を始めるよりも前から、この土が痩せた土地ではたびたび大規模な凶作や飢饉に見舞われることが少なくなかったためである。
僕が神様を討伐し、勇者として認められれば。もうあんな風に、みんなが明日への不安を抱えて空を見上げることもなくなることだろう。
ボロボロの毛布、穴だらけの屋根、つぎはぎだらけの服に農具。みんな新しいものに買い換えることだってできるに違いない。
「貴重な男手を減らしてしまって、すみません」
だから、僕は。数少ない男兄弟である僕に出て行って欲しくないと祖父母も両親も思っていると知りながら――それでもはっきりと、自らの意思を提示してみせるのだ。
「それでも僕は……この家の後を継ぐこと以上に。勇者として、この家だけではなく全ての人々を救える存在になりたいのです。そのためならばこの命、捨ててしまっても惜しくはありません」
僕の意思が揺らがないことを理解したのだろう。祖父は眼を伏せて、ただ一言“そうか”と告げた。
他の誰かが世界を救ってくれるのを待つ。きっと、この世界に生きる殆どの人々はそう思っていることだろう。何も自分でなくてもいいではないか。他の誰かに任せてしまえばいいではないか。どうして自分が、命を賭けて見知らぬ他人を救いに行かなければいけないのか――と。
しかし、そうやってみんながみんな、人任せにしていたら。いつまで経っても、世界を救う勇者など現れない。誰も彼もが名乗り出る者を待っていては、最終的に全員が死んでバッドエンドを迎えるだけなのだ。
だから、自分が行くのである。
世界全ての人を助けるというのは名目で――本当はただ、傍にいる数少ない大切な人達を守りたい、ただそれだけの一心で。
「三日後には、この村を旅立ちます。どうかお祖父さまに、みんなに、トラストの大地の加護がありますよう」
恐怖はある。それでも僕は笑うのだ。
これこそが、己が生まれて来た意味に違いないと、そう確信するがゆえに。
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