<前編>

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 ***  幼い頃から父に剣を、祖父に魔法をしっかりと教わっていて本当に良かったと思う。旅立って最初の難関とされていた北の森を抜け、町に到達するのはさほど僕には難しことではなかった。特に、祖父に教わった魔法は本当に役立ってくれたと思う。モンスターの中には物理攻撃が効きやすいもの、魔法攻撃が効きやすい者がいて、特に魔法が弱点であるモンスターは同時に“弱点属性”をも持ち合わせているからだ。  例えば炎の属性のモンスターは氷に弱く、逆に氷のモンスターは水に弱いといった具合である。それぞれ反発属性を持っていてそれが弱点になっている。土と風、水と雷、光と闇。つまり、魔法に弱いモンスターを的確に狩って前に進むためには、あらゆる属性の魔法をマスターしている必要があるのだ。 「なるほど、あの大賢者のお孫さんか!そりゃあ、全属性の魔法を使いこなせるのも頷けるよ!」  食料品を市場で買い込んでいると、僕がどこから来たのか知った店のおばさんが笑顔でそう話しかけてくれた。 「勇者になろうだなんてねえ……本当に立派だね。正直この町の奴らと来たら、みんな腰抜けでいけないよ。誰かが勇者になって世界を救ってくれるのを待っているんだからさ。まあ、それはあたしも同じだから、人にどうこうは言えないけど。誰だって死にたくないもんね」 「そりゃそうですよ。生きて帰ることのできる保証があれば別ですけれど、勇者本人は消えてしまうわけですから。神殺しは、例え神が邪神に成り果てていても大罪であり、トラストの大地に許されることはない……って話ですからね」 「まあ、そうだけどね」  神が死ねば、神による暴走は終わるので数多くの天災はなくなるのだが。守護者を失った大地は、一時期荒れて混沌とすることになる。この時期に天候不順が起きやすくなり、作物が実りにくくなったりもするのだ。  そしてしばらくすると、邪神は再び良き神として生まれ変わり、この世界を優しく見守ってくれるようになる。そうすると、あらゆる災害がぴたりと止まる上、賢者達に“神託”が下るのでわかるのだそうだ。神様が生まれ変わり、再び良い神様になればもはや世界は安泰である。再び暴走を始めるようになるまでは、世界の平穏は保たれるようになるのだ。  問題は――何故神様が、数百年に一度大暴走してしまうのか、ということなのだが。
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