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「トラストの神様って、名前はないのですよね。みんな“神様”としか呼ばない。人間の姿をしているんじゃないか?とは言われてますけど」
財布を開いて小銭を並べながら、僕は尋ねる。ずっと疑問に思ってきたことだ。
「時々神様の神託が下ることがあるし、存在するのは確かなのに……どうして、神様の姿は誰にも見ることができないのでしょう。神託を渡す賢者の方々にくらいは、姿を見せてくれてもいいのに。聖なる鏡に選ばれた勇者はそのまま消えてしまうから、誰も神様の姿を記録することができないし」
「それね、あたしも結構疑問に思ってはいたんだよねえ。神様を特に強く信じる“トラスト教”の人々は特に、神様にご尊顔叶うことを心待ちにしている様子だけど。顔も姿もわからないせいで、イメージした偶像を適当に作っておったてることしかできないわけだし。ていうか、トラストの神様は特に聖書のようなものも残してくださってないしねえ」
「それに、数百年に一度の大暴走も、です。それまで一生懸命この国を守ってくれていたはずの神様が、何故暴走を起こすのでしょうか」
こんな、商店のおばさんがそんなことを知っているとは思っていない。ただの世間話だ。けれど、こういう人は独自の繋がりを持ち、意外なほど情報通だったりするのである。世間話とはいえ、馬鹿にはできない。遠くの地方の噂もしっかり耳に入れていたりするから尚更だ。
「さあてね。それがわかれば、数百年に一度……万単位で人が死ぬのも防げるようになるかもしれないね。アラネ地方が壊滅した話は聞いたかい?謎の疫病が流行したって話だけれど、何故かアラネ以外の人々には全く蔓延しなかったんだ。あの地方の人はみんな、穴という穴から血を噴出して死んじまったらしいってのにさ」
怖い話だねえ、とおばさんは果物を袋に詰めながら苦笑した。
「神様の高尚な考えは、あたしらみたいな庶民にはわからないよ。でもまあ……いろいろあるんじゃないかい?それこそ、ただ平和に世界を見守るだけでは退屈するようになっちまった、とかさ。そんな理由で世界を危機に陥れられたら、こっちとしてはたまったもんじゃないけども」
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