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――早く、早く。気持ちばかりが焦る。でもダメだ、僕はまだまだ弱い。ここで犬死することになったら、何のためにお祖父さまの反対を押し切ってここまで来たかわからなくなってしまう……!
耐え忍び、力をつけ、強力な武器と防具を買い。
寝る間も惜しんで修練に励んだ僕は――町に来てから一ヶ月後の今、こうして出発したのである。
地道な鍛錬を積んだ成果は確かにあった。僕の剣は一ヶ月前とは見違えるほど冴え渡り、魔法は素早く繰り出せるようになり、強大であるはずの敵達は次々なすすべもなく僕の前に倒れていったのだから。
『この子は、長く生きることができないかもしれません。とても病弱ですし、アレルギーもあります』
幼い頃は、非常に虚弱で、あと何年生きられるかもわからないと言われていた僕。
しかし家族はそんな僕を見捨てず、一生懸命看病し、立派に育ててくれた。家族だけではない。村の人々もとても虚弱だった僕を差別したりせず、家族が困っている時にはサポートをし、子供達も分け隔てなく接して遊び相手になってくれたのである。
彼らと、この美しい世界のおかげで今の僕がいるのだ。病を、体質を克服し、十六歳という年齢まで丈夫に生きることができたのである。そうやってもらってきた恩を、今ここで返さずしていつ返すというのか。
「さあ、鏡を守るドラゴンよ!勇者トラヴィスが此処に来たぞ!」
モンスター達をなぎ払い、僕はついに湖まで辿り着く。鏡を手にすることができるのは、守人たるドラゴンに認められたたった一人の勇者のみ。
負けるわけにはいかない。自分は、命に代えてもこの世界を守りぬくと決めたのだから。
「ゴオオオオオオ!」
ざばん、と湖の水が割れ、青くキラキラとした鱗を持つ巨大な龍が姿を現した。その手には力の源たる宝玉を持ち、同じ色の赤い両目はルビーのごとく爛々と輝いている。その眼に映る人間を見定めることこそ、かの者の役目だ。神の使いにして、聖なる鏡を守る者。鏡とはその使いに許された者の証明でもある。
サファイア・マスター・ドラゴン。水の技が強力だが、他の水属性モンスターと違い、雷属性が弱点にならないことが最大の難点だ。弱点でゴリ押しすることができないので、ひたすら勇者が今まで積み上げてきた経験値や地力が試される結果となるだという。
「いざ、勝負!」
僕は剣を構え――思い切り地面を蹴った。
「勇者トラヴィス……参る!」
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