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熾烈な戦いの後。僕はどうにかドラゴンに辛勝し――鏡を手にすることに成功した。僕は最寄りの町に引き返し、町の人々に鏡を手にしたことを報告することになる。彼らは自分のような若者が本当にドラゴンを倒すことができるなどと夢にも思っていなかったのか、非常に驚き、そして賞賛してくれた。
この町での最後の仕事は、傷を無事に癒すことと――自分が見た、ドラゴンに関する記録を後世に残すことだ。そう、もし僕が神様の“破滅の連鎖”を防ぐことができないのなら。残念ながら、この後数百年後に、再び神様の大暴走が起きることになるのである。そして、数百年後の未来で再度勇者がドラゴンに挑み、鏡の入手に臨まなければならなくなるのだ。
「どなたか、ドラゴンやあの森に関する情報を記録してくれる者はいないか!僕の最後の仕事だ、手伝ってくれ!」
「勿論だとも、今すぐ手配しよう!」
人々は僕の言うことを忠実に実行してくれた。ドラゴンの特徴、あの湖へ辿りつくまでの最も簡単なルートと、モンスター達の特徴。それから、できれば堅実なレベルアップをしてから挑んだ方がいい、素早く動くシッポに気をつけた方がいいというちょっとしたアドバイス。それらを全て書き記し、一冊の本にまとめてくれたのである。
その本がきちんと保存されて語り継がれていけば、次の勇者は今回よりもさらに楽に、そして余計な犠牲を出さずに未来を繋ぐことができるようになるだろう。
――さあ、あとは……最後の戦いを待つばかりだ。
死にたくない。死ぬのが怖い。僕にだって、そういう気持ちがないわけではない。
けれど今はそれ以上に、自分の行いで救われる人がいることが嬉しくてならなかった。町の人々は涙を流して感激し、何度も何度も僕の手を握ってお礼を言ってくれていた。まだ鏡の入手に成功しただけで、神様を討伐したわけでもないのに。――いや、神様を討伐したら僕は消えてしまうのだから、その時にお礼を言えないからというのもきっとあるが。それだけではなく、それほどまでに鏡に選ばれることができず、倒れていった勇者候補が少なくなかったということでもあるのだろう。
僕は最後に、家族へあてた手紙を宿の人に託すと――傷が癒えると同時に、町を出立したのだった。
神様を、倒す。そしてできることならば――二度と暴走しないよう、その破滅の連鎖を食い止めるのだ。きっと神様本人に対峙して話を聞けば、その理由もわかるはずである。僕の対応氏第では、未来永劫続く平和を実現することも可能かもしれないのだ。
そう、この時の僕は、死への恐怖とそれを上回る高揚感、未来への希望でいっぱいだったのである。
実際に神様と対峙して、真実を知ってしまうまでは。
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