<後編>

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 ***  そして僕は、新たな神となる。  世間的には英雄として祭り上げられ、そのまま消えたものとして扱われながら。 ――大丈夫だ。僕は、コーストンとは違う。退屈や孤独なんかに負けるものか。ちゃんとこの世界の平和を未来永劫守って見せる。だって僕はこの世界が大好きで、この世界に生きる人々に心の底から感謝しているんだから……!  しかし、永遠になってしまった僕の時間とは違い、家族は人間として次々寿命を終えていく。  賢者であった祖父と祖母が老衰で人生を終えた時。父がモンスターの襲撃事故で腕を食いちぎられ、苦しみながら死んだ時。母が熱病にかかり、うなされながら自分の名前を呼んで力尽きた時。大人になって結婚した妹が子供を産んで命を落とした時。そのさらに下の双子の妹と弟が、大きくなって酒浸りになり、暴漢に襲われて命を奪われてしまった時。  僕は、見ているだけで何もできなかった。妹の子供が大きくなり、その子がさらに大人になり、いくつも代替わりする中。一族に襲うあらゆる不幸を、王家の支援をもってしても止めらぬいくつもの悲劇を、ただ何もできずに遠い場所で見ていることしかできなかったのである。  それだけではない。僕がどれほど世界の平和を願い、天候を安定させ、人々に安らぎを与えても。宗教や価値観の違いから、人々は簡単に諍いを起こし、時には暴動や紛争にまで発展していく。そのたび、僕は争う心をどうにか鎮めてきたものの、正直に言えばキリがないの一言に尽きた。世界の美しいものばかり見てきた僕が、全く気づいていなかった実情がそこにある。紛争、飢餓、横領、貧富の差、暴動、強姦、猟奇殺人。僕は神として、嫌というほど見せ付けられる結果となった――人間の、あまりにも大きく歪んだ醜さというエゴを。 ――僕は、僕は……こんなに頑張ってみんなを助けようとしているのに。平和を守ろうとしているのに!人間達は誰も僕のことを知らない。僕を認めてくれない!僕の心も知らず、好き勝手に酷いことばかりを繰り返す……!  僕は、なんて甘かったのか。なんて愚かだったのか。  あの時なんとかなるなんて軽く思ってしまった孤独と絶望という名の地獄は――言葉では言い尽くせぬほど酷く、苦しいものに他ならなかったのだ。  神は自分で消えることができない。永遠にこの椅子に縛り付けられて、人々に何かを与えることしか許されない。あんな、自分勝手に生きるばかりの人間達に。 ――それが、永遠?終わりがないとでも?……そんなの、無理だ。僕には……僕にも、無理だ……!  ああ、ごめんなさい、お祖父さま。僕は心の中で、遠い遠い昔に亡くなった祖父に謝った。  耐え続けるのは、数百年が限界だった。もう地獄行きでもなんでも構わない。  此処から逃げられるのならば――どんな場所でも、天国だ。
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