61.中期滞在

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幕間(まくあい) その1 「ねぇねえお兄ちゃん。お話聞いてもいーい?」 「ん? いいよ。今日は何が聞きたいのかな?」 「メイドさんって、男の子でもなれるの?」 「え。それはどういう意味の……」  突拍子もないミオの質問に、思わず言葉が詰まってしまった。どうやらこの子は、今見ている、メイドカフェを紹介する番組に疑問を抱いたようだ。  つまり質問の裏を返すと、「メイドさんのなり手は、どうして女の人ばっかりなの?」という趣旨の問いかけになるわけである。  至極もっともな疑問なのだが、メイドの起源やら、日本独自のサブカルチャーによって、メイドが俗に言うところの「萌え」の対象となった経緯は過去に解説した記憶がある。ただ、その回答では「男の子がメイドになれない理由」の答えにはならない。 「例えば、メイドカフェだけの魅力を思い出してみようか。客として通う男の人たちは、メイドさんならではの制服とか、雇い主への〝ご奉仕〟に対する幻想に憧れて、夢を叶えに行くわけだね」 「セイフク? ゴホーシ? この前聞いたのって、そんなお話だったかなぁ」 「え!? じゃ、じゃあ、ちょっと視点を変えてみようか。メイドさんの頭を見てごらん。何だか白いヒラヒラを乗せているだろ?」 「そーだね。三角巾とは違うの被ってるー」 「実はあれこそが、日本人受けするメイドさんのトレードマークなんだよ」  もともと横文字が苦手なミオは、例に漏れず「トレードマーク」の意味が分からないようだ。この子は、初耳の単語まで横文字に変換してしまうフシがあるので、たぶん「ゴホーシ」をも英語だと思い込んでいるに違いない。
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