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幕間(まくあい) その2
「また横文字になるんだけど、あの頭につけるヒラヒラは〝ホワイトブリム〟って名前なんだよ。あれがなきゃ、見た目はファミレスで注文を取るお姉さんたちと変わらなくなっちゃうからね」
ちょっと極端な説明かも? と思う反面、例えば、メイドカフェの店員さんが着る衣装の色やディテールによっては、本当にウェイトレスさんとの相違点を失ってしまうのも事実である。
古のヴィクトリア朝あたりから確立された制服を継承して、黒のメイド服とエプロンの組み合わせでコスプレするならまだ分かるが、それでもホワイトブリムがないと違和感を覚えるだろう。
そのくらい、あのヒラヒラは「メイド萌え」に欠かせないアイテムなのである。
「じゃ、あのヒラヒラを付けたら、ボクもメイドさんになれるってお話?」
「アレ? そんな話だったっけ……」
ホワイトブリムの説明をしているうちに、ミオが最初に尋ねてきた「メイドさんって、男の子でもなれるの?」という質問の答えが、「ホワイトブリムさえ付ければ、ミオでもメイドさんになれる」みたいな結論へと導いてしまったようだ。
「確かになれるよ。本物のメイドさんとして働くのは早すぎるけど、ミオみたいにカワイイ男の子がメイド衣装を着るとか、コスプレではよくある話だし」
「むー。カワイイじゃないけど、なってみたい……」
俺の腕に顔をうずめてそう答える様を見るに、「カワイイ」という褒め言葉は嬉しいけど、謙遜する気持ちの方が強いようである。事実としてカワイイのに、彼氏に言われてこうまで照れるとは。
「じゃあ、早速取り寄せてみよっか。ネットでミオに合うサイズのメイド服を探してみようよ」
「うん! お兄ちゃんに喜んでもらえるのがいいなー」
俺に喜んでもらえるため、か。その思いがすでに、「ご奉仕」の精神なのでは? と考えると、ミオは彼氏に尽くすタイプなのかもなぁ。
せっかくの提案だし、ここは思いっきり、俺の趣味に乗っからせてもらうとしますか。
*
「見て見てぇ、お兄ちゃん! 似合ってる?」
Illustrated by 福玉死瘟さま
「子猫ちゃんだ……」
「んー? 子猫ちゃんがどしたの? お兄ちゃん」
「……ハッ!? ご、ごめん、うっかり見惚れちまった。まるで、ミオのためだけに作られたみたいでカワイイよ」
「えへへ。嬉しいなっ」
メイド服というコスプレ衣装との相性を褒められたと思っているのか、今度は、カワイイという感想を聞いても照れを見せなかった。
もしかして、ミオが世界初じゃないか? 猫耳と尻尾、メイド服という象徴的な萌え要素のコスプレ衣装を身にまとって、何ら違和感を覚えさせないショタっ娘ちゃんって。
「ガーターベルト、よく自分で着けられたね。やり方を知ってたのかい?」
「うん。学校でお話してた時に、里香ちゃんが教えてくれたの」
……え? なぜ!?
ミオはクラスメートの女の子たちと仲が良く、しばしばガールズトークにお呼ばれするのは知っていたが、その際にガーターベルトの装着方法を教えるってどんな流れなんだろう。この子なら、女装が似合うと確信したのだろうか。
「ヒラヒラに猫ちゃんのお耳が付いてるのって面白いねー。お兄ちゃんにいっぱいゴホーシしちゃうにゃんだよ」
「はは、よく覚えてたね。でも、それを着てくれただけで、ご奉仕としては充分すぎるくらいさ」
そう言って優しく抱き寄せると、ミオは俺の胸板に頬をこすりつけて甘え始めた。こうして、世界にたった一人だけの、子猫系ショタっ娘メイドちゃんとイチャイチャできる俺は果報者だ。
結局この日はいつも以上にイチャイチャして、「ご奉仕」という名目で膝枕までしてもらった。ミオも「メイドになってみたい」という願望が達成できて満足そうだし、何よりノリノリだったから、また着てくれるかもだな。
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