8人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
「実はな…」
祖父は口を開けて、消灯台の引き出しの中からA4サイズの透明なビニール袋を取り出した。その中には一枚のモノクロ写真、黄ばみとしわの入った封筒、鍵が入っていた。
僕は立ち上がって、出された写真を覗き込んだ。着物を身につけたどこか懐かしい、つぶらな瞳をした若い女性。横には白のスーツを着て洒落た中折れ帽子を被った、長身の男性が写っていた。モノクロ写真は色も褪せておらず何の変哲もない写真だった。
「これ、誰?」
祖父は皺のある細い指で写真の女性を指差した。
「若い頃のばあさん」
ばあさん。僕にとって、祖母。
彼女は3年前に他界している。
「じゃあ、横の人はじいちゃん?」
祖父は首を振った。
「だれ?」
僕の問いに彼はまた困ったような表情を浮かべた。
「あぁ、その人は………、見覚えがあるような顔にも見えるが思い出せない。もう六十年以上前の事だからなぁ。この世に居ないかもしれないし、今の姿を知っていたとしても、本人じゃないと正確には分からないだろうなぁ」
「分からないの? で、この写真がどうかしたの?」
祖父は黄ばんだ手紙を手に取った。封筒の中から、封筒ほど黄ばんではいないオフホワイトの便箋を取り出して、僕に差し出す。腰を浮かし、手を伸ばして受け取った。
「読んでいいの?」
「ああ」
便箋はざらついた凹凸のある和紙で、二枚重ねられていた。開くと一枚は白紙で、二枚目には達筆な文字が綴られていた。
最初のコメントを投稿しよう!