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親愛なる貴方へ
拝啓
貴方がこの手紙を読む頃に、私はこの世に存在しないのでしょうね。
寝たきりになってしまっては、もう想いを伝えられないと思い、筆をとった次第です。手紙なんて、数える程度しか書いた事がないので、文章が下手なのは、大目に見てくださいね。
貴方に出会ったのは十六の時でした。
私は貴方のことを一目、見た時から大好きでした。あまり話さないけれど、穏やかに周りの人に向ける眼差しに惹かれました。仕事に一生懸命で、女の人が苦手だけれど、誠実に対応しようとする所も素敵でした。貴方の好ましい部分を挙げれば限りがありません。
これは所謂ラブレターというものです。手紙と一緒に置いている写真は、私の生涯で一番の宝物です。貴方との思い出の写真を大事に取っておいたのです。
私って純情でしょう?
自分の気持ちを伝えられる時間は限られていますね。そう思うと私の人生はあっと言う間だったような気がします。
この想いを宛てた貴方の元へ、手紙は届かないかもしれません。大事に隠して抱えておきたい、けれど本当は知ってほしい、複雑な乙女心でしょうか。もう八十歳を越えたのに乙女だなんて、孫たちに笑われてしまいますね。それでも、どうしても書いておきたかったのです。貴方には一度も伝えた事がなかった私の気持ちを。
愛しています。
貴方と一緒に居たかった。
敬具
坂巻 葉子
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