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お題 節分
今日は節分か……。厳しい寒さに身が縮む冬から、生命が一斉に芽吹き始める春へと変わる、節分。
俺たち鬼は、諸悪の根元、幸福とは対極にあるものとして迫害されなければならない。
俺たちがいてもいいと許されるのは庭の外だけだ。家の中にも、庭の中にもいてはならない。
鬼とはいつでも、力強くて強欲で、人々に恐れられる存在でなければならない。人間が俺たちに求るのは、そういうイメージだ。
一所に共通の悪がれば、民族を纏めやすい。
そしてそれは、鬼同士にも軋轢を生む。
「お前、ほんと鬼の素質ないよな」
里から人間の住処に戻る道すがら、隣を歩く幼馴染みが言った。
「うるさいなぁ、仕方ないだろ、興味ないんだよ」
唯一の気の置けない友だちで、俺が本音で話せるのもこいつだけ。
「つってもさぁ、次、里に戻るとき何にも持って帰らなかったら追い出されるんだぞ」
「まぁそうだけど……」
毎年、節分の日になると鬼は人間の住む國を追い出され、俺たちは鬼の里に帰る。人間から略奪したものを持って。
いつもは怖くて従うしかなくても、節分の日だけは、古くからの習慣が勇気を与えるのか、皆が鬼に向かって炒った豆を投げる。色んな願掛けのようなものがしてあるらしく、これが中々利くのだ。ただの豆なら痛くも痒くもないものを。
俺は、初めて里を出たのが五年で、それから四十五年、一度も略奪物を持ち帰ったことがない。里ではいつも陰口を囁かれる、木偶の坊みたいな存在。それも五十年までは許される。鬼で五十は人間で言えばまだまだ子どもだからだ。
しかし五十一年目には、まだ子どもとは言えど一人前の立派な鬼になって一人立ちせねばならず、それまでに何も略奪できなければ里を追い出される。人間のイメージにそぐわないからだ。
他の鬼が獲ってきたものを分け与えてもらうのも掟破り。それをやったやつはみんな永久追放。だから貰うこともできない。
鬼は強靭であり強欲、そして脅威。このイメージが崩れれば、鬼の社会全体に影響が出る。人間は、いつでも鬼に歯向かうようになる。そうならないように、鬼は角を折られ、里から追い出される。
「まぁ次の一年で何かひとつ持ち帰ればいいんだ、ただそれだけじゃないか。強奪じゃなくてもさぁ、夜にこそっと持ち出す感じで」
「それなら、できるかもしれない。でも罪悪感がやばそう」
「ほんと、なんで鬼に生まれたんだか……」
「それは一番俺が思ってることだよ」
「にしても今年もすげぇコテンパンに怒られてやんの、ほんと、お前のかーちゃんこえぇよな」
「あぁ、本当に。こってり絞られたよ」
「あ、俺この辺までだわ。じゃーな、頑張れよ、また来年~」
「頑張ってみるよ、また来年」
そう言って、幼馴染みとは別れた。
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