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流れ星
その刀の名前は阿僧祇という。
刀工の細屋勝敗が半生をかけて鍛えた業物。万の鬼を滅しても欠ける事がない唯一無二の名刀である。様々な武士や大名が所望したが扱える者は居なかったそうだ。
そして、その名刀も今は何処へか亡失してしまい行方は誰も知らない。
美しい三日月の輝く夜空に幾筋かの星が流れている。
「流れ星だ!」幻次郎と咲、二人は夜空を見上げる。
その眼差しの向こうにいく筋もの星が降り注いでいた。初めて見る光景に咲は胸を踊らせる。
「幻次郎、願い事をするのよ!」彼女は両手をあわせて目を閉じる。その様子を見て幻次郎は微笑む。
「何をお願いしたんだ?」願い事を終えて目を開いた咲に幻次郎は問いかける。
「それはね・・・・・・、秘密よ」咲は軽く微笑み首を少し傾げると彼との距離を空けるように走りだした。
「あまり走り回ると危ないぞ!気をつけろよ」幻次郎は彼女を目で追いながらその場に座り込みそのまま仰向けに寝転び目を閉じた。辺りには雑草が沢山生えていて天然の寝床のようになっており快適であった。
その刹那、空が急に明るくなり幻次郎は飛び起きる。あまりの眩しさにまともに目を開いていられない位であった。「咲!」天空より一筋の光が先ほど咲が駆けていった場所に向かって落下していく。
幻次郎は一気に立ち上がると、腰の刀を左手で固定しながらその落下地点を目指して一目散に走りだした。しばらくすると目映い光が辺りを包む。そして一呼吸おいてから爆音と爆風が彼目掛けて襲い掛かってくる。「咲!!大丈夫か!」幻次郎の駆けつけた目の前に咲がうつ伏せになって倒れている。「おい!咲!」幻次郎は彼女の体を両手で抱き上げ名を呼んだ。
「ん、んんん……」咲が幻次郎の声に反応するかのようにゆっくりと目を開ける。
「大丈夫か!?しっかりしろ!」幻次郎は彼女の身体を少し揺らした。
「ええ、大丈夫・・・・・・、音に驚いただけよ。一体何が起きたの?」何が起きたのか咲にも皆目解らないようであった。
「あれだ、あそこに星が落ちたんだ」咲の身体に異常がないかを確認してから、幻次郎は一人で星が落ちた場所に向かった。
「なんなのだ、これは?」幻次郎の目の前には黒い球体が地面に食い込んでいた。それはとても流れ星と呼べる物ではなかった。幻次郎は腰に備えた刀に右手を添えると、ゆっくりと呼吸を整えつつ近づいていった。
ギー
突然、球体の表面が音を立てながら開いた。幻次郎は刀を鞘から抜き構える。それは、まるで扉が開くかのように……。幻次郎は用心しながらその中を覗きこむ。
「こ、これは!?」幻次郎はその中を見て目を見開いた。
開かれた球体の中には黒装束の美しい女が眠っていた。
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