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確かに、只者ではなかった。
それもとびきりに、間違いなく、この上なく。
けれどもだからこそ、聞かなければよかったと心の底から深く後悔する。
つまらない意地など張らずにへりくだり、深く腰を折って丁重にお帰り願うべきだった。わたしは救いようもなく愚かだった。
この世界にただ【魔女】とだけ名乗るものはひとりしかいない。
それは伝承にある世界創世の四女神。その中にあって最も人に近く、人に寄り添い、人を弄ぶ神。
四女神はひとに【刻印】を与えて非凡な力を持つ【勇者】を生み出すことで知られているが、歴史に記されている【魔女の勇者】の多くは破滅的な最期を迎えるか、あるいは個人のそれよりもずっと大きな厄災を世にもたらしている。忌憚ない感想を敢えて述べるならば、それは創世神というより疫病神のほうがよほど相応しい呼び名だった。
そもそも夜中に部屋に忍び込んで神ですと名乗っている女のいうことを真に受けるのもどうかしているとは思っていたが、なぜか疑いの気持ちは湧いてこない。
信じるのであれば、膝を折り首を垂れるべきであろうか……いやしかし……迷うメリーロッテに対し、彼女は自分の隣の椅子をてのひらで指し示す。
「いかがでしょう、夜分に恐縮なのですけれども、少しばかりわたくしのお茶にお付き合いいただけませんか?」
改めて言葉にされたそれは迷いに対する答えのように心に染み入り広がった。言われるままに歩み寄り、会釈して腰を下ろすとそれだけで緊張がほぐれたような気がする。
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