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「貴女のことをこれまでずっと見てまいりました」
【魔女】は言った。
「同じ女として」
薄灰色の柔らかな瞳をきらきらと輝かせながら。
「貴女のその強く、ひたすら強く折れずに歩んできた想いと努力に、相応の報いの運命を与えたいと、そう思ったのです」
男ばかりの同僚には決して理解されない。
世継ぎを産めなかった両親にも絶対打ち明けられない。
ただひとり、わたしのみに課された苦悩。
騎士家の一人娘という社会構造の隙間に陥った孤独。
無限の闇、永遠の水底。
けれどもその全てを見て、手を差し伸べてくれる存在があったのだ。
それは競わねばならぬ同僚でも、愛する両親でも、仰ぐべき王ですらもない。この社会に囚われぬ絶対的な存在。
そう、神だ。それも、女の。
「あ、ああ……」
女は嗚咽を漏らし涙を流す。この数年に渡って張りつめていたものが崩れ、溶けていくのを感じていた。
「貴女が望むならば」
【魔女】が囁く。
「我が【刻印】を授けましょう。貴女がそれを御する限り、それは貴女に栄光を運ぶでしょう」
有史以来記録の限り大小さまざまな滅びを産んできた【魔女の刻印】。
それは重々承知していた。
己が寝ている間に部屋に忍び込み勝手に茶を楽しんでいた相手に【魔女】を名乗られたとき、この人生にまだ不幸が上塗りされるのかと、運命と呼べそうな全てを呪った程度にはそれを理解していた。はずだった。
けれども。
「どうかわたしに運命を打倒する力を。【魔女の刻印】をお授けください。その願いが叶うならばこのメリーロッテ・フォン・ローゼンハイム、身命の全てを貴女に捧げることを誓います」
椅子から立ち上がると膝を折って【魔女】の靴に口付けんばかりに首を垂れて誓いの言葉を口にする。
「どうかそのようなことをおっしゃらないで」
女が跪いた目の前に【魔女】もまた膝を折っていた。
「わたくしは貴女の味方。貴女が望む限り……」
するりと脇に腕を滑り込ませて密着し、ふわりと重心を移して女を組み敷く。
「貴女が望むままに力を与えましょう」
【魔女】の吐息は熱を帯び、その薄灰色の柔らかな瞳は蠱惑に潤んでいた。
「わたしが、望むままに……」
反芻するように呟く女に優しく頷く。
「ええ……わたくしの与える条件を満たすたびに、ほんとうに限りなく」
【魔女】は隙間に手を差し入れ柔らかく裂くように女の肌から寝間着を捲りあげた。鍛え上げられた、しかしまだ繊細さも残された白い肌にくちびるを寄せる。
「貴女が」
引き締まり割れた腹にゆるゆると指を這わせヘソをなぞる。
「誰かと歓びを交わすたびに、貴女に少しばかりの膂力と俊敏さを与えましょう」
「誰かと歓び……よろっ!? っはぅっ」
【魔女】は狼狽する女に構うことなく、その下の鍛えてなお柔らかな丘へと舌を這わせていく。
「そしてその者が貴女の指揮下にある限り、その者にも貴女の加護の片鱗を与えましょう」
ぴちゃりと粘りのある音が響く。それに合わせてじわりじわりと女の息が乱れていく。
「もちろん貴女がどれだけの力を求め、どれだけの者をその指揮下に据えようとも、わたくしは一切関知致しません。全ては貴女次第」
白い肌に踊る濡れた赤い舌に沿うように、喜悦と共に【刻印】が刻まれていく。
「はっああっ……」
朦朧とする女の視界を支配する、薄灰色の柔らかな、蕩ける瞳。
「ええ、貴女こそ新たな【魔女の勇者】に相応しい」
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