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「いや~、この街にも美味いB級グルメがあるね~」
四川天津(よつかわてんしん)と飯田飲茶(はんだやむちゃ)は美味いB級グルメを求めてそれを記事にするグルメライターで、バイクでさすらいのグルメ旅を続けているグルメライダーでもある。
「しかし、究極のラーメンにはいつの日に出会えるのかな~」
天津はB級グルメの中でもラーメンには特に目がなく、究極のラーメンを見つけ出すのを生涯の目標としていた。
美味いラーメンには数々出会えたが、究極と呼ぶに相応しい程のラーメンには未だ出会えずにいた。
「んっ、んん~っ、何ていい匂いなんだ。この先にメチャ美味いラーメンがある」
天津はものスゴくいい匂い、美味しそうなラーメンの匂いを嗅ぎつけて猛烈ダッシュで走り出した。
天津は美味しそうなラーメンの匂いならどんな遠くの匂いも嗅ぎつけることができて、その鼻は動物以上の嗅覚である。
「お、おいっ、待てよ。オレを置いてくな」
飲茶も慌てて天津の後を追って猛烈にダッシュする。
険しい山道も肩を並べて軽快に走っていくふたりの姿はまるで若き日の西郷どんと大久保が希望に向かって山道を駆けて行った姿みたいである。
しかし、ふたりはまだ知らなかった。この山も決して人が足を踏み入れてはならない聖なる山だということを。
「おお~っ、これは美味しそうなラーメンじゃん」
山の中には祠のようなところがあって、ラーメンはそこに祀られるように置いてあり、美味しそうな匂いを漂わせていた。
しかも、10人分以上は裕にあろうという超巨大な丼に入っている。
「うひょ~っ、いただきま~す」
「なんか祀られてるようだぞ。ヤバくないか」
スゴい勢いでガッつこうとする飲茶を流石にヤバいと思って一度は止める天津だが、
「こんなところに出しっぱなしに放置してある方が悪いんだ。こんな美味しそうなラーメンを食べずにガマンできるかっていうんだ」
「もう、しょうがないなぁ。それにしても本当に美味しそうだ」
結局美味しそうなラーメンには抗うこともできずにふたり共ガッついてしまった。
後でこの時に何がなんでも思い止まるべきだったと後悔することになるのであるが・・。
ガッついてみたらそのラーメンの美味しいことといったら何とも表現のし難い今までに食べたこともない美味しさだ。
数々の美味しいラーメンを食べ歩いてきたが、このラーメンに比べれば全く比較の対象にならない。
「もしかして、ついに出会えたのか。究極のラーメンに」
ふたりは夢中になってラーメンを食べ、つゆまで飲み干してしまった。
10人分はあろうかという超巨大ラーメンだから一人当たり5人前は食べたことになるが、このふたりがガチになれば10玉は替え玉をするし、今はなきCoCo壱のジャンボカレーも完食してしまう程の食べっぷりなのでふたりにとっては大したことでもない。
「なんて美味しいんだ。究極のラーメンに決定だ。早速ブログにアップしなくちゃ」
天津ははりきってこの究極のラーメンを記事にしようとスマホを取り出した。
「ちょっと待てよ。こんなどこだかも分からない山奥の店もないような所のラーメンをどう紹介するんだよ」
飲茶にツッコまれて、それもそうだと天津は少し冷静さを取り戻した。
「ところで飲茶、どうしたんだ、そのおデブは?まるでブタじゃないか🐽」
天津は飲茶がいつの間にかとてつもないおデブになっていたことに驚く。
「何を言ってるんだ。おデブはお前だ。どうしたんだ、その豚みたいな姿は?🐽」
天津こそいつの間にかとてつもないおデブになっていたので飲茶も驚く。
ふたりは目をパチパチとさせて見つめ合うと各々自分の体を確認してみる。
「なんじゃ、これは~、~っ」
ふたりは揃って大声を上げた体は変わり果てたようにメチャ太っていて、シャツがはだけて出っ腹が飛び出していて、ズボンは今にもはちきれそうで危険だ。
そういえば、ちょっと前に二匹の豚が美味しそうにラーメンを食べているオブジェがあるラーメン屋に行ったのだが、まるでその時の豚のような姿に成り果ててしまっている。🐷
「どうしてこんなことに・・・」
「さっき食べたラーメンのせいかな・・」
ふたりは途方に暮れて深い溜め息を吐くしかなかった。
「この~、罰当り、愚か者、人でなしどもが~、~っ」
ふたりが途方に暮れていると白い服を着て白髪で髭を生やして杖を持っている昔のビックリマンシールに登場する神様のような老人が現れた。老人はメチャメチャ怒っている。
「人間の分際で決して足を踏み入れてはならない神界に立ち入って、こともあろうにワシが楽しみに、楽し~みに、とってもとっても楽し~みにしていたラーメンを勝手に食べてしまうとは」
どうやらあのラーメンはこの老人のモノだったようで、老人はラーメンを食べられてしまったことをメチャメチャ怒っているようだ。
「あ、あの~、あなた様は」
「もしかして」
ふたりは目をパチパチさせて老人を見つめている。
「うむ、いかにも。もしかしてもしなくてもワシがお前たち人間の言うところの神様である」
神様は偉そうにしながらもラーメンがなくなってしまった丼を口惜しそうに見つめている。
「畏れ多くも神界まで足を踏み入れるとは・・しかもワシの大切なラーメンを食べてしまうとは、本来ならば命はないところじゃが、ラーメンの匂いを嗅ぎつけて神界にまでやってきた超人的なグルメパワーに免じて今回に限りおデブの刑で勘弁してやろう」
神様は丼を眺めながら飲茶と天津が置かれている状況を説明してやる。
相当ラーメンが口惜しくて怒っている様子である。
やはり思い止まるべきだった。あれは絶対に食べてはならない神様のラーメンだったのかとふたりは落胆して深い溜め息を吐く。
「分かったら早々に立ち去るがよい。ワシの気が変わって命を落とさんうちにな」
神様は丼の匂いを嗅いで、丼の底を舐めてつゆの味だけでも堪能する。相当に口惜しい様子だ。
「申し訳ありませんでした」
「代わりに美味しい料理をご馳走させていただきますから、どうか元の体に戻してください」
ふたりは涙を流して土下座をする。
土下座をして頭を下げた拍子にパンパンに張り詰めていたズボンの尻がビリっと盛大な音を立てて破れてしまった。
神様はズボンが破れる様子を見て思わず吹き出したが、すぐにまた険しい顔をする。
「汚いヤツらだ。デブの男のケツなんか見ても嬉しくも何ともないわい」
自分がデブにしたことなどすっかり棚に上げて神様は不愉快そうにしている。
「どんな美味しい料理でもご馳走しますから」
「フン、美味しい料理なら食べ歩き記録更新中なうじゃ。お前たちなんかよりよっぽど頼りになるガイドがおるからな」
神様は見せびらかすようにスマホを取り出してB級グルメのブログを表示する。絶対にスマホなんかにしないと言っていたのに、3Gが廃止されるということで、廃止したヤツに天罰を落としてやるとかプリプリ怒りながら渋々スマホにしたら、これがまた気に入っちゃって、しかも紹介された店に行けば絶対にハズレはないというブログまで見つけたから超ご機嫌で誰かに見せびらかしたくてたまらないのだ。
「あっ・・」
「そのブログ・・」
天津と飲茶は目をパチパチとさせて見つめ合う。そして、
「オレたちのブログなんです」とハモった。
「それは誠か・・う~む」
神様は慌ててブログの作者情報を確認する。女性のブログは作者情報まで確認するが、男のブログにはそんな事はしないので、このふたりがお気に入りのブログの作者とは1㍉も思わなかった。これでも一応神様なのである。
「う~む、このブログにはいつもお世話になっているしねお・・本当に反省してる?」
神様はものすごく悩んで考え出した。
「はい、反省しています」
「深く、深~く反省しています」
ふたりはもうペコペコとひたすら頭を下げる。
「う~む、しかし、ラーメンの件をただで許すワケにはいかんしのぉ」
やはりラーメンのことはかなり怒っているし、かなり根に持っているようだ。
「助かるのなら何でもする覚悟はあるか?」
「は、はい。何でも致します」
ふたりはもうひたすら土下座をする。ここで神様の御機嫌を取らなければもう一生元には戻れないから必死だ。
「う~む、そこまで懇願するのなら、本当に深~く反省しているのなら、美味しいものを食べさせてくれるなら、許してやらんこともない」と神様は随分ともったいつけて話を進める。
「どうじゃお前たち、邪神と戦う戦士になってみないか」
「邪神?」
「戦う?」
突然の突拍子もない展開にふたりは目をパチパチとさせるが、神様は構わずに話を進める。
邪神とは、これでも一応光である神様とは真逆の闇の神で、人間の絶望した心が生み出すソウルジュエルと魔酒を好物としている。そのために人間を絶望させて闇に墜としているのだ。
天津と飲茶はその恐ろしい邪神と戦う戦士になるように言い渡された。
邪神と戦う戦士になる時だけは元の、いや、それ以上のスリムな姿に変身できるし、邪神を倒す度に少しずつではあるが植えつけられた脂肪が燃焼するので、戦い続けていればその内元に戻るであろうという何とも長期スパンな話である。
しかし、いつかは元に戻れるのならばやるしかない。ふたりは戦士になることを引き受けるしか選択肢がなかった。
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