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【9月第4月曜日】
先週の金曜日に振り込まれた給料から借金を返済しようとしたけれど、部長はまとめてでいいと言うから、60万円貯まったらお支払いしようと思う。
とりあえず生活費に1万円だけ引き出して財布に入れた月曜日、今日も会議室でのランチタイムに。
「藤代さん」
橋向係長が、開け放たれたドアからひょっこり顔を出して呼んでくれる。
「はい」
「お客様よ、水木さんってかたが、応接ブースにいらしてる」
「──水木!?」
悟志なの!? なんで今頃、いやなんで会社に……!!!
というか、いつも部署にかかってきた電話は遠藤さんが受けるけど、席にいなかったら係長が取ってくれたんだ、つか係長もお弁当なら今度は会議室で食べようって誘おう。
私はタッパーのお弁当箱をそのままに、応接ブースに急いだ。
パーティションで仕切られただけの場所、ひとつひとつ覗きながら行くと、一番出入り口に近いところに、間違いなく悟志がいた。
「悟志……!」
「よお、奈々、久しぶり、つかお前今どこにいんだよぉ」
罪の意識なんてゼロの明るい声。
「どこにいんだよは私のセリフだよ! 家具まで売り払ってどこにいるの!?」
「あー、あはは、ごめんー」
全然謝意を感じない謝罪を受けた。
「今は友達んとこ転々としてる、駄目だと漫喫とかカラオケボックスとか。それよりさあ、約束の10万、振り込んでくれよぉ」
「はあ!?」
約束、なんの約束よ! もう部屋も借りてないし、それだけのことをしておいて、まだ結婚する気があるのか!
「それはさ、なんで半年も家賃を払ってなかったのかと、預金残高がゼロになってた説明をしてもらってからでいいですかっ!?」
「残高ゼロ? 家賃が払われてないなんてないってー」
「現に、それで家が差し押さえられて……っ」
言いかけた私の肩を誰かが掴んだ、誰、とその顔を確認すると予想よりずっと上で──それは金原部長だった。
「ぶちょ……」
「──君か、藤代の同居人だったって言うのは」
低く恫喝するような声なのに、悟志は空気も読まずに「チョリーッス」とか指付きで挨拶する、いやきっと部長が部長とは思ってないんだろうな、私の先輩くらいの感覚? いやいや上司ですからね! きちんと敬意を持って対応してください!
「──いい度胸だな、こんなところまでやってくるとは」
あ、部長のこめかみに青筋が見えました。
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