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洗い終わり手を拭いてキッチンから出ると、ちょうど部長が帰ってきた。郵便受けに届いたものを見ながら入ってくる。
「お疲れ様」
部長がねぎらってくれる。
「いいえ、私はなにも。友弥さんこそお疲れさまでした、飲みすぎじゃありませんか?」
「あれくらいなら大丈夫だ」
本当ですか、強くないですか? 部長だけで2本分は飲んでそうな気がしますけど。
郵便物をチラシやダイレクトメールと分けていた部長が「ああ」と呟き、白い封筒をテーブルを滑らせて私に差し出す。
「プレゼントだ」
「プレゼント?」
誕生日でもないし、クリスマスはまだ先なのに。
「なんですか?」
聞きながらそれを拾い上げ宛名を見る、部長宛てで下の方に旅行代理店の名前が入っている。なんだろうと思いながらキッチンカウンターに置いてある筆立てからペーパーナイフを取り出して開けていた。
中身を覗き込んだ、航空券だった、まだその意味が判らぬまま全部出して──息を飲んだ。羽田から福岡を経由して、福江島へ向かうチケット……!
「友弥さん、これ……!」
「年末年始はそこへ行く、予定は空けておけ」
予定も何も、部長と過ごすこと以外考えてなかったけど……!
「宿も取れた、君の実家だ」
「はい……⁉」
声が思い切り裏返ってしまう、え、待って訳判らない、部長と実家に泊まる……⁉ いや旅館だから泊まるのはいいんだけど……!
「正直、君もそれなりにいい年だろう、適齢期という奴だ。そんなお嬢さんといい年の俺が、親御さんに断りもなく交際をしていることに多少の罪悪感は感じている。かと言っていきなり電話と言うもの失礼だろう、一度きちんと逢ってご挨拶をしたいと思った」
「あ、挨拶、って……」
おおお、お嬢さんを僕に下さい、的な⁉
「明らかに俺との年齢差はあるからな、街を歩けば、少しばかり世間の視線が痛い」
ああ、先日も同僚の方に言われちゃいましたからね。
「若い女で遊んでいるかのような誤解はされたくない、君さえよければきちんとした形式を取りたい」
け、形式って……。
「俺と、結婚するか?」
そんな事を、何のためらいもなく、そんなに余裕めいた笑顔で言わないでください……!
「よ、酔ってますか?」
「酔ってない。酔った勢いで言ってると思ってるのか」
「いえ……」
だって、このチケットは少なくとも今日より前に取ってくれたんですもんね。
「あの、本当に私なんかで、いいんですか?」
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