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「来るのはいいが、盗聴器なんかしかけるなよ?」
部長が言うと、また市松さん達は嬉しそうにきゃあきゃあ盛り上がっている。本当に大丈夫かな、こんな状態でうちに呼んで……。
*
果たして土曜日。
お昼からいつでもどうぞ、と声をかけていた。私は何を準備しようかと気構えていたのに、結局部長はケータリングを頼んだので、私はなにもすることがない。グラスとカラトリーの準備をしただけだ。
12時過ぎから三々五々集まりだす、市松さんと植木さんと遠藤さんは約束してから来たようだ、揃って現れた。次に橋向係長が来て、残りのふたりは男性で、やってきたのは二時になろうかという頃だった。
ボジョレー・ヌーヴォー、初めて飲む……ワイン自体をそんなに飲まないから比較もできないけど……確かにフルーティーなお酒でおいしかった。
ワイングラス──智恵子さんとお揃いで買ったものは、棚の奥深くにしまった。部長が新しいものを買ってくれたから。来客用にも赤ワイン用のグラスを用意したついでだ。
「部長、次のボトル、出していいですか?」
男性社員のひとりが開いた瓶を持ち上げながら言う、あらいけない、ホストの私が気を使わなくては。
「ああ、じゃあクリュと書いてある方を出してくれ」
部長はグラスを傾けながら言う、結構飲んでると思うけど、酔わないな。ちょっと『見たことがない部長』を楽しみにしてるのに。やはりスピリタスくらい用意しないといけないのかしら。
「クリュですねえ」
男性社員が言って空いた瓶を手に立ち上がる、私がそれをやろうと立ち上がろうとすると、部長に腕を引っ張られた。
勢いあまって部長に倒れこんだ。それを見た皆がはやしてるものだから恥ずかしくなる、部長は私の背に腕を回すし。
「君はここにいろ、俺の隣から離れるな」
──って、酔ってますね、顔も喋りもしっかりしてるけど、離れるな、って……!
見ている皆の笑顔が怖いです、部長の空いたグラスに、植木さんがどうぞーとか明るい声で次のワインを注ぐ。その時男性社員がクリュ・ボジョレーの栓を開けた、部長はグラスのワインを飲み干してそれを注いでくれとグラスを差し出す……って、もう、そんな勢いで大丈夫ですか⁉
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