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普通じゃない”頼み”
放課後、俺とタクミは男子生徒――浅間ユウトから、道すがら事の詳細を聞かされていた。野次馬には悪いがお引き取り願った。ユウト本人が、いたずらではなく本気で悩んでいるのが俺たちにもわかったからだ。まぁ、それ以外にも理由はあったが。
ともかく今は、三人とも自転車を引きながら、会話を交わしている。
「で? 直接近くで確認したわけじゃないんだな?」俺はユウトに、念押しの為聞いた。
「そんなこと、出来るわけないだろ! あれは、絶対幽霊か妖怪だよ! 実際に見た僕にしかわからないんだ!」ユウトは怯えていた。そのせいで事件の実態が掴みずらかったが、タクミが要点をまとめてくれた。
「はいはい落ち着いて、クールダウン。つまり、ユウトくんは部活の帰り道に謎の浮遊する光を見た。時間帯は二十一時近く。よくよく見ると人間の生首で、そいつは不気味に笑っていた。で、君は恐ろしくなって家までチャリを漕いで逃げた。そのあとはどうなったかわからない……と、こういうことでオーケー?」揉める寸前だった俺とユウトの間を取り持って、タクミは話してくれた。こういうとき、こいつは謎の頼もしさを発揮する。だが、今はそれがありがたい。ユウトも落着きを取り戻したらしく「お、オーケー」とどもりながら頷いた。
「……本当に最悪だよ。あの時スパイクも落としちゃって、探しても見つからないし。やっとレギュラーに成れたのに……」
ユウトは憔悴している様子だ。よっぽど昨夜の出来事が堪えているのがわかる。
「……ここが、昨日僕がそれを見た場所だよ」ユウトは砂利道の途中で止まり、指をさす。「あそこ、あの辺にアレがあったんだ」
「……田んぼしかねぇけどな、見た感じ」
「ふむふむ、どうかね? 四畳半ホームズくん?」
「冷やかすな、ちょっと待ってろ」俺は二人をその場に残して、田んぼに続く細い農作業用の道を歩いた。自転車は、タクミに預けた。
「このへんかー?」少し進んだ先に、軽トラ一台が通れるほどの道を見つけて、そこから二人に声を張り上げた。「多分―!」ユウトが短く返した。
あたりを見回しても、何も変わったところはない。ただのあぜ道だ。体を地面に近づけて、目を皿のようにしてみても、特に見当たらない。“そういう”気配も。それが問題だった。
「どうだった……?」戻ってきた俺に、ユウトが不安そうに聞いてくる。何もなかった――そう答えるのは簡単だが、ここまで信頼されてしまっては、そう無下にもできない。なにより、彼は納得できず今日も眠れぬ夜を過ごすことになるだろう。
「ちょっと調べてみる。今日の二十一時にここに集まれ。ユウト、いつも通り部活に出ろ」そう言って俺はタクミからチャリを受け取った。タクミは訳知り顔だ。
「お? 調査開始かい? 俺も行こうか?」したり顔で言うタクミ。だが、それは必要ない。
「お前はここで現場検証だ。俺一人でいい。多分そっち”方面だ」来た道を一人で引き返す。ユウトは測りかねている様子だが、タクミはにやつきながら「よろしく言っておいてねー!」と、元気に手を振っていた。そう、ちょっと会いに行く人がいるのだ。思い当たるふしというか、関係ありそうな人たちに、心当たりがあったから。
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