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因果応報
部活が終わり、僕は帰宅する。本当はもうあの道は通りたくなかったが、ヒロシさんとタクミさんがいつも通りに帰れと連絡を寄こしたのだ。心底嫌だったけど、仕方ない。二人を信じて田園を自転車で飛ばす。
「……きた、来てしまった。あの道だ」
事前に言われた通り、昨夜と同じ場所に自転車を止める。時刻も、大体同じだ。あたりは真っ暗で、いつあれが出てきても不思議はない――
「――――きた!」
同じだ! あの時と! ぼうっと青白い光が、気色悪い生首を浮かび上がらせている!耐えきれず、叫びだしそうになった次の瞬間――
「見つけたぞゴラァー!」
「観念しろ、いじめっ子どもめ!」
あの二人の声が、生首の近くから響いてきた。
◇
「いったいどういうことなんですか――!?」
ユウトは状況が飲み込めずうろたえている。それはそうだろう。生首の正体が、彼と同じ部活の同級生だったのだから。ただの嫌がらせだ。主犯は、あの時野次馬に来ていた中の三人だった。
俺とタクミは三人の男子生徒を砂利道の上に正座させて、睨みを利かせている。三人は観念してか、暴れるようなことはしなかった……皮肉だが、こういう時に、自分が強面で体が大きくてよかったと実感する。
「ほら、何か言ってみろよ」わざと声を低くして脅すと、一人が早口にしゃべりだした。
「こ、コイツが俺らを差し置いてレギュラーをとりやがったから……つい」内容はくだらないものだった。
「はー、やっぱりか」
「どうするヒロシ? ヤキ、入れちゃう?」
「んーどうしようか……おい、ユウト。お前はどうしたい?」
「ぼ、僕は――」ユウトは乗り気ではなさそうだ。まぁ、そうだろうな。そういう性格っぽいし。次に何を言うかは想像がついた。「――スパイクを返してくれれば、あと、もう嫌がらせをしないと約束してくれれば」
「――だそうだ。お前等、約束できるよな?」
凄みを利かせて三バカに忠告する。三人は、こくこくと頷くと、一目散に逃げていった。
「――なぁヒロシ? どう思う?」タクミが耳打ちする。ユウトに聞かせないためだ。
「――決まってんだろ」俺はため息をつきながら言った。
◇
「――ったくなんだよアイツよぉ! マジむかつくぜ!」
「なぁ? アイツボコらね? 三人で囲めば余裕っしょ!?」
「そうだなっ、アイツの帰り道調べて――」
反省の色を見せない三人は口々に愚痴を述べ、暗いあぜ道を歩いている。先ほどの一件が気に食わないのだろう。会話はヒートアップしていき、なにやら剣呑な雰囲気を帯び始めていた。
話に熱中していたからだろう、周囲を、青白い炎に囲まれていることに気付いたのは、しばらくしてだった。
「――! な、なん……」
全員が、異変に気付く。周りは青い炎が漂っている。それは遠くから徐々に近づいていき、やがて人間の生首が浮かび上がった。
「あ、ああ――!」声にならない叫びをあげる彼らに、生首たちは語り掛ける。
『お前たちか、我らを騙る不届きものは!』
『その上まだ懲りぬとは……愚かな生き物よ』
『良いか! またあやつらにちょっかいを出そうとするなら、お前たちもこうなると知れ!』
“ぎゃははははははははは”と生首は甲高く笑い、三人の鼻先まで飛び掛かり、そして消えてしまった――
「…………」
三人は、気を失い、朝まで起きることはなかった。
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