過去との出会い

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 ルーデングーム邸の地下室に作られた横穴を進むと、次第に気温が下がってくるのを感じる。 「これは地下水脈にでも繋がっているのですかな」  足元は人が歩きやすいように丸石を敷いてあるが、いくらか湿っているようで時々滑りそうになる。  何度か転びそうになるのをアルテミスに助けられながらどうにか進み、ついに終着点らしき場所へ出た。  暗闇からランタンの小さな光で照らし出されたそこは石壁が整えられた部屋になっており、壁にはいくつかの本棚が据え付けられ、多数の図面が収められていた。 「これは……従者の設計図ですかな」 「そのようですね。工房で量産するためのものでしょうか」  だがそのほとんどは地下水の漏出にさらされて重く湿っていた。 「腐食していないのは低温に保たれていたからかな。  ダンバーレがランタンをかざして部屋を一通り観察すると、奥に続く扉が見つかる。 「お任せください」  アルテミスが皆を制して扉の前に立った。 「しかし……」 「まあここは任せましょう」  ドア越しに音を聞くアルテミス。 「誰もいないようです。ドアを開けますか?」 「頼む、アルテミス」 「かしこまりました、モデーラ様。ダンバーレ様、ランタンの火を落とせますか?」 「ん?ああ、わかった」  ダンバーレがランタンのシャッターを閉じると部屋が暗闇に包まれる。  かすかに金属部品がこすれる音がしてやがてラッチが小さな音を立てて外れた。  そのままドアをゆっくり押し開ける音がかすかに聞こえると、より一層冷たい空気が奥の部屋から漏れ出してくる。  だが向こうの部屋も明かりが灯おらず、部屋は相変わらず暗闇の中だ。 「ダンバーレ様、ランタンをつけても構いません」  それに従いダンバーレがランタンのシャッターを開けると再び部屋に光が戻る。  ランタンの光がなぞるように照らし出したのは、この場所に似合わない豪華な寝台と、その上で横たわる……死蝋化した遺体だった。 「ふーむ、私は専門ではないのですが……少なくとも数年は経っているでしょうな」  この遺体がルーデングーム当主だとしたら、今従者に命令を出しているわけではない。  だがそれならあの従者はどうしてあんな行動をしているんだろうか……。  当主が死ぬ前にそういう命令を出していた?  だとしたらなぜ当主は好事家たちが最近手に入れた従者の残骸を盗む命令が出せたんだろう。  ふと家探ししているアルテミスの姿が目に入る。  なんだ、簡単なことじゃないか。  あの従者は自分がそうしたいからそうしているんだ。  他に何があるっていうんだろう。  一見モデーラの言葉に忠実に見える従者の行動も、本質は従者自身がそうしたいからというだけじゃないのか。  実際従者の行動は今まで経験しただけでも全てが単純にモデーラに絶対服従というわけではなかった。  ときにはモデーラの命令に異を唱えたり命令を待たずに行動したりしていたじゃないか。  ……アルテミスたちには嫌われないようにしたほうが良さそうだ。  と、ここで再び一つ疑問が湧いた。  封じられた双子は当主の奥さんを殺害した、となっている。  これは……従者の意志だろうか?それともモデーラの命令だったのだろうか? 「これを見てくれ!」  ダンバーレが声を上げる方を見ると、部屋の端の作業机の上に焼け焦げた従者の残骸が載せられているのが見えた。  両腕と両足に、頭が揃っている。 「これは盗まれた残骸ですか?」 「ええ。頭以外は、おそらくそうです」  そうか、頭は元々ここにあったのかもしれない。 「ちょっと見せていただきますね」  俺はその残骸に手を触れないように顔を近づけて観察した。 「ん?これは何ですか?」 「どれですかな?」  ダンバーレにランタンを借りて照らしてみる。  右腕の付け根の部分、組み上げたならおそらく隠れてしまうであろう内側の方に、それはあった。  最初は残骸の傷のようにも見えたが、そこには3576という数字が刻まれていたのだ。 「シリアルナンバーかな?」  他のパーツも見てみると、番号は2種類、3576と3577があった。  右腕と両足が3576、そして頭と左腕は3577。 「どういうことですかな?」 「これ、おそらく双子の部品が混ざってますね。……ということはもしかしたら今稼働中の彼女も部品を混ぜて組み立てられているのかも」 「それは大丈夫なものなのですかな?」 「さあ……俺にはよくわかりませんが……」  その時突然、手に持っていたランタンに何かがぶつかり弾き飛ばされた。  ランタンはそのまま壁にぶつかって床に落ち、火が消えて部屋が暗闇に沈む。  間髪入れずに何者かが俺をのしかかるように床に抑え込む。  ダンバーレも声を上げたところを見るとすぐ横で同じようにされているようだ。  一体何者……いや、この感触はアルテミス?  俺たちを押さえつけていたアルテミスはすぐに立ち上がる。  暗闇の中何がどうなっているのかわからないが、数度、鋭い金属音が響いたかと思うと部屋は再び静寂に包まれた。 「……ダンバーレさん、大丈夫ですか?」 「ええ、私は大丈夫ですが……どこかに明かりは……」  暗闇の中、無駄とわかっていても俺はあたりを見回す。 「アルテミス、どこだ!?」 「モデーラ様、ここにおります」  突然部屋が薄暗く照らし出される。  明かりの方を見ると、そこにはランタンを持ったアルテミスが立っていた。 「アルテミス、無事か?」 「申し訳ありません、モデーラ様。あの従者が現れたようです」 「なんだって?」 「盗まれた残骸を持ち去られました」  振り返ると作業台の上にあった残骸は消え去っていた。  <<つづく>>
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