過去との出会い

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 ルーデングーム亭は火事で焼け落ちてからずっと放置されていたようで、その庭は背の高い雑草で覆われていた。  その草むらの奥には焼け残った屋敷の壁や柱だけが当時の面影を偲ばせている。 「たしかに人が暮らしているとは思えませんね、これは」  俺たちは草をかき分けながら屋敷に向かって進む。 「この状態ならば、逆に人の出入りがあれば痕跡が残るでしょうな」  ダンバーレの言う通り、この草むらを跡を残さずに移動できる人間はいないだろう。  だけど……あの従者ならどうだろう。  庭を抜けて屋敷の前にたどり着く。  かつては美しく造形されていたであろう建物は窓も扉も屋根も失われ、辛うじて残った壁が風雨にさらされながらも踏みとどまって、かつては家だったことを主張していた。  内側に入ると、かつて屋根や天井や二階の床だったものが崩れ落ちて床に積み重なっている。  廃墟を一巡りして最後にやけに広い部屋にたどり着いた。  あちこちがガラクタで埋め尽くされたこの部屋は、元々は工房だったのだろうか。 「無駄足でしたかな……」  ダンバーレがつぶやくように言った。  だが部屋の中央付近でアルテミスが立ち止まる。 「そうでもないようです」  そう言うとアルテミスは床石に開いた小さな穴に指をかけ、それを持ち上げた。  石同士が擦れる重そうな音を立てながら床石が取り外される。 「これは……」  絶句するダンバーレと俺の前に現れたのは、地下室に続くはしごだった。  梯子を降りると様々な部品と素材が置かれた棚が並ぶ部屋があった。 「工房の資材置き場のようですね」 「そのようだが……」  ダンバーレが声を潜めて俺に言う。 「彼女は……アルテミス殿と言ったか……一体何者なのです?あの床石、私でも一人で持ち上げられるかどうか……」  そういえば彼にはまだ言ってなかったな。 「ああ……アルテミスは俺の従者です」 「なん、です……と?」  ダンバーレはアルテミスを振り返る。  アルテミスはいつものことと微笑み返す。 「いや、しかし……こんな、このような……」  アルテミスを凝視して固まっているダンバーレ。 「その驚きは私と我がモデーラ様への賞賛と受け取らせていただきます」  自分がアルテミスをじっと見つめていたことに気がついたダンバーレは慌てて目をそらした。 「こ、これは失礼!てっきりアルテミス殿は人間であると思い込んでおりました」 「いえいえ」  俺は地下室を改めて振り返ってみる。 「それはさておき、ここに何があるのか調べてみましょう」 「そうですな、しばしお待ちを」  ダンバーレは腰のポーチから小さな箱を取り出す。  その箱をあちこち動かしていると形が変わり、小さなランタンになった。  ダンバーレはそれにマッチで明かりを灯す。 「さて、行きましょうか」 「へー、便利なもんですね」 「左様、我々の七つ道具の一つ、と言ったところですかな」  ランタンの明かりで照らし出された地下室を一歩ずつ進むと、その最奥の石壁に人が通れるほどの穴があけられているのが見えた。 「地下道があるようですな」  これはもしやここが潜伏場所なのだろうか。  <<つづく>>
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