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まさか………見えてないの?
子どもは強い力でわたしの手を引いて部屋から出る。
わたしは呆けたようになすがままで、子どもと一緒に階段を下りた。
男は、リビングの奥の和室に広げた布団で寝ていた。
子どもは手を離すと、男の側に行き、わたしの顔を見てまたニコリと笑った。
そして、今度は男の布団の周りを大きな足音をさせてぐるぐると回り始めた。
声こそ聞こえないが、これも嬉しそうに笑っている。
「うわ!」
男は跳ね起きると、辺りを見回す。
子どもは男のそんな様子を気に留めるでもなく、楽しい遊びをしているかのように布団の周りを走り回り続けた。
「なんなんだ! なんかいるのか!」
男は立ち上がり威嚇するように叫ぶが、その声は震えている。
子どもはひとしきり走り回ると、ただ立ち尽くしてそれを見ていたわたしの側へ来て、また手を握った。
恐る恐る辺りを見回す男に、注意を促すように、子どもはその場で大きな音をさせて床を踏みならす。
男がこちらを向いた。
子どもと手を繋いだまま、わたしは真正面から男と対峙する形になった。
男の表情に脅えが走っているのがありありとわかる。
勇気を出して口を開いた。
『あの、わたし………。説明するのが凄く難しいんですけど………』
男はじっとこちらを見つめている。
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