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唯は所在なげに立っていたが、しばらくしてリュックを机におろすと椅子に腰掛けた。真由は離れた場所に座る。
ふたりは何も会話を交わすことなく、ドアの外でスタッフが行き交う音だけが微かに聞こえる。
わたしはそんなふたりに関係なく、部屋の中を勝手に歩き回る。窓の外には樹木が並んでいて、鮮やかな緑が眩しい。小さな給湯室とトイレ、ロッカー室が隣接している。
「ごめんなさい。待たせたわね」
しばらくすると、猪迫さんが部屋に入ってきた。ふたりに「優暖苑」とロゴが入ったエプロンを渡すと、名札を胸に付けさせた。
それから猪迫さんは付いてくるように言うと、ふたりが出るのを待って部屋に鍵を掛けた。
「施設内は、色々な人が出入りするからね。トラブルがないように、スタッフの荷物が置いてあるここの部屋は、鍵を掛けているの。もし、何か取り出す物があったらわたしに言って。館長以外は、私しかここの鍵を持っていないから」
介護職員室に入ると、コンピューター端末が載った事務机をぐるりと囲む形で、スタッフが集まっていた。
スタッフは全部で十五人ほど。女性に混ざって男性がふたりいた。中年以上の人間が中心で、若い人はちらほらといる程度だ。
「では、朝の申し送りを始めます」
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