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『このおばさん、頼りになりそう』
猪迫さんの逞しい後ろ姿に、わたしは思わず感想を漏らす。
廊下には理容室、健康管理室、一時介護室、家族面会室などのプレートが掛かった部屋が並ぶ。多目的ホールに出ると、ここでもその豪華さが際だった。
落ち着いたマホガニー色を基調とした広いスペースに、テーブルや椅子が並び、端っこの方に暖炉と応接セットが設えてある。
入居者の老人たちが、ソファーで寛ぎ談笑していた。廊下から部屋まで全ての壁には手摺りが走っていて、それを見ると老人ホームだと改めて思わされる。
ホールを横切って廊下を進むと、食堂や厨房、食品庫に続いて浴場があった。浴場内に入ると大きな脱衣室があり、そこに面してスロープが付いた大浴場、特別な器具が占領している浴場が二つ並ぶ。
もうめいめいスタッフが忙しく準備をしていた。手を洗うように言われたふたりは洗面所に向かう。
唯たちふたりは、猪迫さんと一緒にリフト浴室と呼ばれる浴場で待機する。
老人が座った専用の椅子を、浴槽に備えられたリフトで持ち上げそのまま浴槽に入れるのだと、猪迫さんはふたりに丁寧に説明する。タオルを持たされたふたりは、それで老人の背中を流す役目だ。
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