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スタッフのひとりが車椅子の老人を連れてきた。白髪の小柄な老婆だ。スタッフと猪迫さんで衣服を脱がせると、キャリーと猪迫さんが呼ぶキャスターが付いた椅子に老婆を座らせる。
スタッフがそのまま浴場にキャリーを押してはいると、まず軽くシャワーで老人の体を流す。それが終わると、浴槽の角に立つリフトの器具にキャリーの椅子をはめる。スタッフの操作によって、老婆を乗せた椅子が持ち上げられ浴槽の上に来ると、そのまま浴槽内にゆっくりと下がっていく。
湯に浸かると、老婆は気持ちよさそうに目を細めた。
「池田さん、どう? お湯は熱くない?」
猪迫さんが語りかけると、老婆は大丈夫、大丈夫、とでも言うように何度も笑顔で肯いた。
「さ、能瀬さんと仁志田さん。池田さんの背中を流してやって」
ふたりは恐る恐るお湯を浸したタオルで、老婆の背中を流してやる。
「池田さん、今日はね、高校生のふたりがお手伝いに来てくれているの。気持ちいいでしょう?」
老婆は相変わらず、にこにこと肯く。その柔和な老婆の表情に、唯の強張った表情も徐々に解れていくようだ。
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