見知らぬ家

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 初めに感じたのは、自分の手に伝わる暖かいぬくもりだった。  わたしの手を誰かが握っている。    それは、とっても小さな手。  儚いくらいの小さな手の感触が、温かく伝わってくる。  その小さな手のぬくもりが、なぜか心地よくわたしの心を満たしてくれている。    目を開けた。    煌々と光を放つ大きな月が目の前にあった。  まるで手を伸ばせば触れることができるんじゃないか、と思えるほど大きく輝く月の存在感に、圧倒される。  月の表面には、黒い染みのひとつひとつがくっきりと浮かんで見えた。    横には、わたしの手を握った小さな影が寄り添うように立っている。  小さな女の子。  知らない子だった。暗くシルエットのようになった横顔は、ひどく寂しそうに見える。  どこからか微風が入り込むのか、柔らかな前髪が揺れている。    子どもはじっと動かない。  月を見ているのか、あるいはわたしの方を覗っているのか、横顔からは何もわからない。  寂しそうな表情だが、面立ちは整った可愛い子だった。  わたしは吸いつけられたように、ただぼんやりと目の前の光景を見つめていた。  白い光の束が、まるで空気を切り裂くナイフのように部屋に差し込んでくる。  しばらく経って小さな手が離れた。  そこでようやく月の光の呪縛から逃れたように、我に返ることができた。
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