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その子の名前なのか、マジックで太く書かれている。
『マイ………。あなたの名前はマイって言うの?』
子どもは相変わらず無言だった。
『ねえ? ここはどこ? あなたのおうちなの?』
わたしは子どもの肩に手をかける。
焦りから、思わず口調が強くなってしまう。
子どもは口を閉ざしたまま、わたしの手から逃れた。
と、どこから持ってきたのか、子どもはしゃがむとカーペットの床に画用紙を広げた。
手にはいつの間にかクレヨンを持っている。
ぽかんと見つめるわたしに構わず、子どもは画用紙いっぱいに絵を描き始めた。小さな手はたどたどしく、クレヨンの線を画用紙に刻みつける。
カーペットの床では描きにくいのか、線も薄く途切れそうだ。
出来上がったのか、子どもはしきりに画用紙を指差しながらわたしに見ろと促す。
大きな丸と、その中にもう一つの小さな丸。
そして小さな丸の中に、十字の線。
『なにこれ? なんかのマークなの?』
どこかの国旗?
『これをどうしろって言うの?』
子どもは何も答えない。
子どもが指差す絵をあらためて見直す。
見たことのないマーク。
しかし、全く記憶には無いのだが、なぜか不快な感じがする。
何でだろう。
そのうちに飽きたのか、子どもは立ち上がり押し入れの前まで行く。
襖を開けるとそのまま押入に入って、中から襖を閉めた。
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