見知らぬ家

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 なんでこんな所に?   突然の子どもの行動に、しばらく押し入れの襖をぼんやりと見つめていた。しばらく待ったが、子どもは出てきそうにもないので、押し入れの前に行き声を掛けた。 『ちょっと』  襖を開ける。  しかし、押入の中は衣装ケースがぎっしりと詰められていて、とても子どもが入るような隙間はない。  上の段は布団が積み重なっていたが、もちろん背の届かない子どもが上れるはずもなくその姿はない。  え? あの子は?  子どもが消えてしまった。  何がなんだかわからない。わたしは呆然と押入の中を見つめる。  部屋の中を見回した。  さっき子どもが絵を描いた画用紙だけが、ぽつんと部屋の中央に置かれている。  ………………。   変わらず月の光は部屋の中に射し、微かな風でレースのカーテンが揺れている。  窓の外はベランダになっているようだ。  物干し竿がひとつ掛かっているのが見える。  辺りはしんと静まり返っていた。  他の部屋に誰かがいるのかもしれない。  決心すると、わたしはドアを開け部屋の外に出た。  暗く短い廊下。横にもう一つドアがある。  そこで立ち止まり中を窺う。何も音はしない。  ドアを開けてみた。
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