見知らぬ家

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 誰もいなかった。  位置の関係か、この部屋には月の光が差し込んでいない。  暗い部屋に、大きな洋服ダンスと小さな本棚。本棚には、文庫本と雑誌が少し。  下の方に色も形もばらばらな箱が押し込められている。  隣の部屋と同様の、オフホワイトの壁紙。  他は何も目を引く物はない。  目が慣れてきているのか、暗がりでも部屋の中はよく見えた。  わたしは静かに部屋を出ると、下の階の気配を伺った。  何も音はしないので、階段を下りる。  下も灯りは点いていなかった。  階段を下りたすぐ横は、流しとガスコンロ、冷蔵庫が並ぶキッチンで、食器棚とテーブルで少し部屋が狭く感じる。  キッチンは綺麗に整頓されており、食器棚も冷蔵庫も真新しい。  ここにも人の気配はない。  隣はリビングで、中央に白いソファーと壁に面してサイドボードが置かれ、その上にテレビが載っている。  窓に掛けられたカーテンは全て閉められている。  リビングの奥は和室があるようで、青い畳が見えた。  わたしはそこで立ち止まり、しばらく周りの音に耳を澄ませた。  壁に掛けられた時計が秒針を刻む音、台所の冷蔵庫からブーンと低い音が漏れる以外、何も聞こえない。  思いきって電灯を点けようと壁のスイッチを押そうとした。  でも、知らない家で灯りを付けるのは何となくためらわれてやめておいた。
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