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薄暗い中、改めて部屋の中を見回してみる。
全く記憶にない。
壁の時計は午前2時を指し示している。
覚えはないが、自分の家なのか。
自分が誰なのかもわからないのだから、自分の家の記憶がないのは当たり前だ。
わたしはリビングに敷かれたセンターラグに直接座ると溜息をついた。
毛足の長いラグは、柔らかく肌に心地いい。
もし誰かに会ったら、包み隠さず自分の置かれている状況を話すつもりだった。
全く知らない家にいるのだから、正直に話すしかないだろう。
こうしている間にでも、誰かがこの部屋に来るかも知れない。
わたしの顔を見て、
あれ? どうしたんだ?
とか、普通に家族の会話をして。
わたしはすかさず、今までの経緯を話す。
自分が誰だかもわからないこと。
気が付くとここにいたこと。
そして、消えてしまった子どものこと。
寝ぼけているのか? お前は誰々でここの家の者だろう?
そして、他の家族、例えば姉かだれかが顔を覗かせる。
いやあね。
あんたまだ呆けるのは早いんじゃない? とか言って、わたしをからかう。
しかし、こうして見知らぬ部屋の中を歩き回ってみると、そんな淡い期待は萎えてしまう。
取り敢えず誰もいないことにホッとした。
誰か居れば、自分の置かれた状況を理解する近道になるのかもしれない。
しかし、記憶もなく見知らぬ家にいて、更に見知らぬ人に遭遇したらどう対処したらいいのか全く自信がない。
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