偏食家の親友

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 小学校の入学式で出会い、大学は別の所に進んだものの、いまだに仲がよい幼馴染の親友。  そんなに長い付き合いなら、普通は不満がアレコレ募りそうなものだが、俺から相手に対しての不満はいまだにない。  強いて言うなら、偏食が多すぎることが不満かな。  アレルギーとかはないけれど、好き嫌いで食べられない物が多く、飲食店に行く際、結構あれこれ悩まされた。  しょせんその程度の不満だが、お互いもう大学生だし、数年後には社会人になる。  食事の好き嫌いは、ない方が人付き合いに有利だし、何より、色々食べられた方が人生絶対幸せだ。  そう思い、あえて、相手が苦手としているジャンル飲食店に不意打ちで連れて行った。  最初は無理だと言っていたが、強引に進め、口をつけさせたら、案外何でも食べることができていた。  これで好き嫌いは克服できたなと、にこにこ店を後にした帰り道、薄暗く人気のない道の真ん中で親友は足を止めた。 「今日はありがとう。俺、かなりの偏食だったけど、今日の食事で、実は色んなものが食べられるって判ったよ」  親友のその言葉に俺はたまらなく嬉しくなった。  偏食なんて、ホント、ない方がいい。完全にかどうかは判らないけれど、親友が少しでもそれを克服できたなら嬉しい限りだ。  ニコニコと相手を見る。でも、見つめたその目に笑みはなかった。  笑ってない。でも、怒ってる訳でもない親友の目。それをどこがで見た気がすると思った機と、親友がそらに言葉を続けた。 「…ずっと、『多分食べられる』って思ってた。でも世の中には、一応食べられるけど美味しくないものだらけだった。だからきっと不味いと信じてた。だけど今日、たいていのものは美味しいと判った。だから、俺…〇ちゃんはとっても美味しく食べることができると思う」  長い付き合いの親友。その筈だった相手の言葉。  それの意味を俺は理解す値ことはなかった。だって俺はその暇もなく、親友だった筈の存在の口の中に納まっていたから…。 偏食家の親友…完
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