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スズランは事務所は構えず電話一本で営業している。
ある日俺に歳が近い子を紹介された。
「鈴木一朗です」
俺より1歳上のはずだが、童顔のアイドルみたいな顔。
名前は俺と同じく親がノリでつけたとしか思えない。俺の名前を聞いて『あなたもですか』といった苦笑を浮かべていた。
今日はふたりで加賀谷に会うことになっていた。
夜の相手だけではなく、食事に行ったり飲みに行くのも仕事のようだった。もちろんそれだけ料金は安くなるが体は随分楽だ。
「櫻井さんにマナーを教えてやってくれって頼まれてるから」
そう言われてフランス料理店に連れていかれた。
「直也くん。この前は楽しかったよ。ありがとう。一朗くんははじめましてか。よろしくね」
「はい。よろしくお願いします」
在籍は長いようだが仕事は夜メインで、普通に食事するのは初めてらしく緊張していた。
もちろん俺も勝手がわからず緊張している。
「顧客はセレブが多いからこういう所でも相手できるようにって頼まれたよ。でもわからないことは聞けばいいだけの事さ。雰囲気に慣れればいいだけだよ」
昼の加賀谷は夜の獣とは違う、政財界の大物の貫禄と紳士のスマートさがあり、性癖って複雑だなと思った。
「なかなか同じ趣味の人を見つけるのは難しくて櫻井さんにお願いしてるんだ。仕事関係との会食ばかりで気が休まらない。たまにはゆっくりしたいから」
「では俺たちも勉強して加賀谷さんについていける話題をおぼえないといけないですね」
俺の言葉に首を振る。
「仕事から離れたいから普通の話がしたい。最近何が流行っているとかそんな話が楽しい。飲みに行って、経済の話なんてしたくないんだよ」
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