エピローグ

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 開いたドアの隙間から、白いタキシードを着た大好きな人が顔を覗かせ、「秋花、準備でき……」と言った。 「何で途中で言葉を切ったの?」  私が笑いながら聞くと、その人は少し顔を赤らめながら 「え、だって……秋花が想像以上に、綺麗すぎたから……」と照れ臭そうに言った。  普段は何てことないように「可愛い」だとか「好き」たとかバンバン言ってくるのに今更照れるなんて、何だか可笑(おか)しい。 「紅夜も、タキシード凄く似合ってるよ」 「……ま、当然だな」  その人──紅夜はそう笑って言ったあと、真面目な顔をして 「……で、やっぱり連絡とれなかった?」 と聞いてきた。  それに私は小さく頷いて「やっぱり、メッセージも、メールも届かなかった」と答えた。 「そっか」  紅夜もアオの事が気になっているのか、時々「ことのは」に行ってみたりしているみたいだけれど、紅夜はおろか、ことのは店長さんもあれから一度もアオとは会えていないらしい。 「結婚の報告、したかったな」  私がそう呟くと、紅夜が「そうだな」と同意した。  アオに、報告したかった。  貴方のお陰で、こうして私たちは幸せになることが出来たんだよ、と──……。  コンコンとまたドアを叩く音がして、返事をすると、今度は式場のお姉さんがドアを開けた。 「あの、新婦様にお届け物があるのですが……」 「お届け物……ですか?」 「はい。こちらなのですが」  式場のお姉さんが取り出したのは、小さなブーケだった。  淡い紫と白で統一されているそのブーケには、 『I always hope your happens.  この花を、君に。』 と書かれたメッセージカードが挟まれていた。  ──これって……。  私はその文字に見覚えがあった。確か、「ことのは」にある花言葉メッセージカードも、同じ字で書かれていた。  それに、白くて小さい花は、うちにある花瓶に描かれていたものと同じ花だったし、私に花を贈る人なんて、一人しか思い当たらない。 「あの、これ、宅急便か何かで送られてきたんですか?」 「いえ、こちらの受付まで直接、持ってこられました」  その言葉を受け、紅夜をちらりと見ると、紅夜も私の顔を見ていた。  多分紅夜も、私と同じことを考えているのだろう。 「その人って、茶色の髪で、身長はこ……夫よりも少し低いくらいの人じゃなかったですか?」 「そうですが……」  ──やっぱり、間違いない! 「アオだ……!」  私がそう呟くと、紅夜が慌てて「その人は今、どこに?」とお姉さんに訊ねた。
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