46人が本棚に入れています
本棚に追加
/124ページ
開いたドアの隙間から、白いタキシードを着た大好きな人が顔を覗かせ、「秋花、準備でき……」と言った。
「何で途中で言葉を切ったの?」
私が笑いながら聞くと、その人は少し顔を赤らめながら
「え、だって……秋花が想像以上に、綺麗すぎたから……」と照れ臭そうに言った。
普段は何てことないように「可愛い」だとか「好き」たとかバンバン言ってくるのに今更照れるなんて、何だか可笑しい。
「紅夜も、タキシード凄く似合ってるよ」
「……ま、当然だな」
その人──紅夜はそう笑って言ったあと、真面目な顔をして
「……で、やっぱり連絡とれなかった?」
と聞いてきた。
それに私は小さく頷いて「やっぱり、メッセージも、メールも届かなかった」と答えた。
「そっか」
紅夜もアオの事が気になっているのか、時々「ことのは」に行ってみたりしているみたいだけれど、紅夜はおろか、ことのは店長さんもあれから一度もアオとは会えていないらしい。
「結婚の報告、したかったな」
私がそう呟くと、紅夜が「そうだな」と同意した。
アオに、報告したかった。
貴方のお陰で、こうして私たちは幸せになることが出来たんだよ、と──……。
コンコンとまたドアを叩く音がして、返事をすると、今度は式場のお姉さんがドアを開けた。
「あの、新婦様にお届け物があるのですが……」
「お届け物……ですか?」
「はい。こちらなのですが」
式場のお姉さんが取り出したのは、小さなブーケだった。
淡い紫と白で統一されているそのブーケには、
『I always hope your happens.
この花を、君に。』
と書かれたメッセージカードが挟まれていた。
──これって……。
私はその文字に見覚えがあった。確か、「ことのは」にある花言葉メッセージカードも、同じ字で書かれていた。
それに、白くて小さい花は、うちにある花瓶に描かれていたものと同じ花だったし、私に花を贈る人なんて、一人しか思い当たらない。
「あの、これ、宅急便か何かで送られてきたんですか?」
「いえ、こちらの受付まで直接、持ってこられました」
その言葉を受け、紅夜をちらりと見ると、紅夜も私の顔を見ていた。
多分紅夜も、私と同じことを考えているのだろう。
「その人って、茶色の髪で、身長はこ……夫よりも少し低いくらいの人じゃなかったですか?」
「そうですが……」
──やっぱり、間違いない!
「アオだ……!」
私がそう呟くと、紅夜が慌てて「その人は今、どこに?」とお姉さんに訊ねた。
最初のコメントを投稿しよう!