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「それが……これを新婦様にお渡しするようにと申し上げられた後、直ぐに帰られてしまいました」
「そうですか……」
私は少し落胆した。
でも、アオはやって来たのだ。私たちが結婚式を挙げる、この式場に。
「……それにしても、どこで知ったんだろう、アオ」
「あいつ、実は秋花をストーカーしてるんじゃね?」
「やだそれ、怖い」
笑い合う私たちに、式場のお姉さんが遠慮がちに「あの……」と声をかけてきた。
「ご注文の薔薇のブーケはもう用意されてあ
るのですが、いかがいたしましょう?」
私は紅夜をチラリと見た。
それを受けて、紅夜が小さく頷く。
「このブーケを持って行きます」
「かしこまりました。では、もうすぐ、始まりのお時間となりますので……」
「あ、はい。行きます!」
そう答えると、紅夜が「はい」と手を差し出した。
私がその手を取って立ち上がると、真っ白なウエディングドレスがふわりと揺れる。
「何だか、夢みたい」
「もし夢だったら、どうする?」
「うーん、目が覚めたら泣くかな」
私はアオからのブーケを手に取り、式場であるガーデンへと向かった。
廊下にある窓からは、ここを式場にした決め手であるガーデンの花達が、私たちを祝福するかのように柔らかい春の光を浴びて美しく咲き誇っている。
その景色を見ながら歩いていると、不意に
「……ラナンキュラスと、ブライダルブーケの花束だね」
と、紅夜がぽつりと呟いた。
「え?」
まさか紅夜から花の名前が出てくるなんて思っていなかった私が聞き返すと、紅夜はペロッと舌を出した。
「ことのはに通ってたら、花の種類とか花言葉とか、覚えちゃった。ラナンキュラスの花言葉は確か、『幸福』。で、この白い花……ブライダルブーケの花言葉は……」
「こちらで御座います」
ガーデンへと続く扉の前で、私たちは立ち止まった。
この先には、私たちを支えてくれた、大切な人たちがいる。
残念ながら、アオがそこにいることはないけれど、でももういい。
「『幸せを願い続ける』」
ここに、アオの想いが詰まったブーケがあるから。
「最高の花の贈り物だな」
「……うん」
式場の人たちが扉を開ける。
それと同時に、柔らかい光と、優しい花の香りが私たちを出迎えてくれた。
おしまい
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