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俺はいつものように、夜の街をブラブラと歩いていた。
バイト終わりで疲れているにも関わらず、こうして街を闊歩している理由は簡単だ。家に帰ったって、誰もいないし、何もないからだ。
あんな冷たい家に帰るくらいなら警察に補導された方がマシだ。もっとも、歩いているだけでは補導されない年齢だけど。
しかし、今から行く場所は本来、十九歳である俺が行くべきところではなく、そこで警察に補導されても文句は言えない。
まぁ、マスターもお客さんも他人に無関心な所だから安心だけど。
そう思ってたのに。
「きゃーっ! いいところね、ここー!! あ、お隣いいかしら?」
……何か騒がしいやつがきた。
金髪の髪をツインテールにしてピンクのフリフリの服を着たロリータ女。他にも席が空いているのに、しかも連れらしきスーツの男が一緒なのにも関わらず、俺の返事も待たずに隣の席に座った。何故だ。
それどころか、連れの男は「松原はひとりで飲んでていいわよー!」と言われ、遠くの席に追いやられていた。連れじゃねぇの? あの男。
それでも、絡んでこないだろうと思って気にしないようにしていたけれど、あろうことか女はカクテルを注文したあと、
「ねーねー、君ひとりなのー?!」と話しかけてきた。
もう一度言うけれど、席は他にも空いている。つまり、俺の周りにはこの女以外、誰もいない。イコール、俺に話しかけてるんじゃあないと勘違いしているというフリもできない。
「……まぁ」
煩いな、と思いながらも仕方なく答える。
「そうなんだぁ! あたしはねー、弟と待ち合わせてるんだぁ! わ、このカクテルかわいー! ピンクだー!!」
……とにかく、煩い。
苛立ち紛れにブランデーの炭酸割りをを飲み干し、マスターにウイスキーの氷割りを注文した。
「ねぇねぇ、聞いてるのー?」
「……煩いんだよ」
ウイスキーを受け取った俺は、静かに女に言った。
「煩いんだよ、あんた。本当はそんな性格じゃねぇくせに、はしゃいんでんじゃねぇよ」
その言葉に、女はピタリと動きを止め、静かに「……どういうこと?」と言った。
「どうもこうもねぇよ。それ、演技だろ? 本当の性格ならいいけどよ、そんな演じた感じで話しかけられても煩いだけだっつーの」
少しの間、沈黙が流れた。
頼んだばかりのウイスキーの氷がカランと鳴る。
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