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「ふふっ、ふふふふっ」
やがて、女は静かに笑いだした。
「あははっ、君凄いね。こんな短時間で見破られたのは初めてだよ」
女はそう言うとピンク色のカクテルをグイッと飲み干し、「マスター、私にもウイスキー頂戴。 あ、ロックでね!」と言った。
「やっぱりな」
「何でわかったの?」
「仮面被ってんの見え見え」
「うーん、普通見破られないんだけどなぁ。勘がいいのね……えっと」
女はそこまで言うと、俺の顔を見た。
悩んだ末、「……実だ」と、下の名前を答えた。苗字だと、嫌でもあの家との繋がりを意識させられそうだったからだ。
「実くんね。私は雅。……ところで、実くん。私もひとつ聞きたいのだけれど」
「何?」
「実くん、未成年よね?」
「……あんたも、中々勘がいいんだな」
「あんたじゃなくて、雅ね」
訂正された。
「見て直ぐに分かったわよ」
「ふーん。まぁ、通報するなら勝手にどうぞ。俺は抗う気ねぇから」
そう言うと、女──雅は手を振り、
「やだ、そんなことするように見える? 確かに未成年がお酒を飲むことは良くないことだろうけど、でも通報するのは野暮というものよ。……それに、まぁ、私も未成年のうちから親に隠れてお酒飲んでたし、人の事言えないわよ」
と言った。
「へぇ、ワルなんだな」
「現在進行形の実くんに言われたくないけどね」
雅はそう言うと、ウイスキーのロックをクイッと飲んだ。……中々豪快な飲み方をする奴だな。
「……で、何で俺に話しかけてきたんだ? 確かに客は少ないけど、他にもいるのにわざわざ未成年に話しかけるなんて」
「んー……何となく、空気が似てたから、かな」
「……」
それは、俺も感じていたことだった。タイプは違うけれど、どことなく、雅と俺の空気は、似ている。
だからこそ、雅の演技に気づけたわけなのだけれど。
「何か、辛いことでもあった?」
「……まぁ」
「そっか。私と同じだね」
雅はウイスキーのロックをあっという間に飲み干すと、またウイスキーのロックを注文した。
「私、婚約者にフラれちゃったんだよね」
「……そうか」
「実際、背中を押したのは私なんだけどね。でも親が決めた婚約とはいえ、ちょっと相手の事、気に入ってたからさ。いざ破綻したら、悲しいもんだなって思った」
その話を俺は、自分に当て嵌めて聞いていた。似ていると思ったのはそのせいなのかも知れない。
「……その気持ち、分かる。俺もつい最近、同じような事をしたから」
「実くんも?」
「あぁ。……相手を想って背中を押すってのは、案外苦しいもんだよな」
「……そうだね」
雅はそう言うと、目を伏せた。きっと、元婚約者の事を考えているのだろう。
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