幸せに満ちる島

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「あの、ちょっと、こんな格好で外を歩くなんて」 エイジに腕を引かれ、店から出てきたモモカは大胆なビキニ姿になっていた。 「なんでなんで、とーっても似合ってるよぉ」 エイジが強引に買い与えた水着にモモカは顔を赤らめ、脚をモジモジとさせている。胸元やお腹まわりを少しでも隠そうと、身体のあちこちに腕を回しているが、まるで意味がない。 「せめて、なにか羽織るものを」 「いいって、いいって。さー、このまま海まで行っちゃおー」 いつの間にか自分も水着姿になっているエイジは、モモカの背を押してグイグイと海へと向かう。その後ろを、ドッジがどよんとした目でついてくる。砂浜へ着いても、モモカはまだとまどっていた。 「どこか案内するんじゃなかったんですか?」 「だーかーら、ビーチまで案内してもらったんじゃない」 「私が案内されてきたような……」 「いーの、いーの。美しい砂浜で君のような素敵な女性とふたりきり。まさにメルバという言葉そのもの。そう思いませんか、モモカ」 「え、エ、エイジさん?」 「ふたりきりじゃないんだけどな」  派手なアロハシャツに着替えたドッジが割り込んだ。 「おまえ、なんで出てくんだよ」 「なんでって、俺は初めからいるだろ」 「ここは気ぃ効かせて顔引っ込めてるとこだろ」 「仕事はじめたばかりで、なに考えてんだ」 「うるせー、こっちは休暇中に無理やり仕事入れられたんだ。だったら仕事中に休暇を入れてなにがわるい!」 「おまえはなにを言ってるんだ」  ぎゃあぎゃあと騒ぐ二人をポカンと見ているモモカ。そこへ若い男が近づいていた。背後から走り寄る気配にモモカが気づいたのは、もう男の手が届こうというところだった。バカ騒ぎを演じていたエイジたちが、バッと向きを変える。振り返ったモモカが声を上げた。 「兄さん」  盛大にずっこける二人。 「モモカ、大丈夫か。ひったくりにあったって」 「大丈夫よ、この二人が助けてくれたの。あら?」  モモカの指は中空を指し、その下から砂まみれの二人が取りつくろった笑いをみせる。若い男は深く頭を下げた。 「妹を助けていただき、ありがとうございます」 「なあに、コソ泥が勝手にすっ転んだだけさ」  砂を払いながら二人は立ち上がる。 「いいえ、本当に助かったわ。エイジさんがいなかったら、絶対に追いつけなかったもの」 「よろしければ、我が家にお越しいただけませんか」  モモカの兄は品のある態度で続ける。 「たいしたお礼にもなりませんが、せめて食事でも。妹はこう見えて、料理の腕は確かなんです」 「そいつは魅力的だ」 「待て、エイジ。そこまでしてもらったら、かえってわるい」 「なんでだよ、せっかくモモカちゃんが手料理ふるまってくれるっていうんだぞ。厚意をないがしろにしちゃ──」  エイジをぐいと引き寄せて、ドッジは声をひそめる。 「俺たちの姿を、あまり広めるのはまずいって」 「地元の協力者を作るのは、ミッション成功の秘訣だぜ」 「だが、あっちの素性もわからないんだぞ」 「だーかーら、これからゆっくり教えてもらえばいいのさ、ムフッ」  エイジはドッジの腕を振りほどくと、モモカとジョアへ満面の笑みを向け、 「というわけで、お邪魔させていただきます」 「はい、よろこんで」  ドッジはまたも、やれやれと首を振った。
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