幸せに満ちる島

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「また停電だわ」 「よくあるのかい?」 「すみません、このところ発電所が不安定らしくて、すぐ電力不足になるんです」 ジョアはランプを取り出すと、慣れた手つきで火を灯す。 「今日はなん時間かしら」 「朝までかかるかもしれないな」 「まだ八時じゃないか。朝までこんな真っ暗なまま過ごすのか?」 「ホテルやレストランのような、外国の方が利用する施設は大丈夫ですよ。市民の家の電気を止めて、そっちにまわしていますから」 「それはつまり、私たち外国人のせいで不便な目にあっているってことですか」 「別にそんなこと思ってないわ。こんなのいつものことだもの」 「ええ、いつものことなんですよ。おそらく今夜は電気は戻りませんから、このままホテルへお送りします。そのほうが不便をかけませんから」  来たときのように、ジョアの車に揺られ、真っ暗な夜道をホテルへ向かう。空には、こぼれ落ちそうなほどに星が瞬いている。  海岸沿いまで降りてくると、数は少ないものの街灯が規則正しく灯っている。海へ目を向ければ、星々が水平線まで散らばり、天の川が南東から立ち昇って北西へと流れ落ちている。 ジョアのオンボロは窓がはまっておらず、モモカは吹き抜ける風に髪をなびかせ、気持ちよさそうに目を閉じている。ビーチに沿ってはしる道路は火山のある島の東へと向かい、砂浜に岩が混じりはじめた辺りに外国人専用のホテルが集まっていた。 「じゃあ明日は九時。九時に迎えにくるから」  ホテルの前で明日の時間が決まると、ジョアは車をターンさせた。戻っていく車を見送り、ふたりはホテルを見上げる。 『グランヘリッド・メルヴィア』  この国で最高とされるホテルは、絢爛豪華という西側スタイルとは違い、作りのしっかりした東欧的なシックなたたずまいだ。建物の周囲も清潔に保たれている。  ポーターが荷物を持とうとするのを断り、二人は自動ドアをくぐった。ドッジがカウンターにむかい、エイジはロビーラウンジのソファに腰をおろす。照明は、やや暗く感じる。ホールのスタッフにコーヒーを二つ頼む。  チェックインを済ませ、ドッジがもどってくる。運ばれてきたコーヒーに口を付けながら、二人は人間の動きを眺める。ロビーの客、従業員、出入りする人物、不審な動きをする者はない。見える範囲で建物の構造も確認すると、二人はコーヒーを飲み干した。 エレベーターで客室へあがる。三階の隣あったシングルルーム。廊下に人影がないことを確かめると、二人はまずエイジの部屋へとはいった。荷物を下ろし、ドッジだけがすぐに部屋を出ていく。エイジは荷物から小型の電子機器をとりだしてテーブルの上に置くと、さらに小さな機器を壁にペタペタと貼っていく。タバコに火をつけ、ゆっくりとくゆらせながら部屋を回る。バスルームも、簡易なクローゼットの四隅にも煙を回す。やがてドッジが戻ってきた。 「部屋は快適そうだ」  エイジの言葉に、ドッジはテーブルの機械を確認する。 「なにかを発信している様子はないな。カメラやホールはどうだ?」 「それも大丈夫そうだ。外は?」 「廊下も階段も問題ない。階段は内も外も使える」 「じゃあ次はお前の部屋だな。俺は建物を見てくる」  エイジは廊下を歩いていき、ドッジは荷物をもって自分の部屋へ入った。
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