②ー過去ー

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「…大学に入ってからは、  ケータイを替えて、  それまで持っていた連絡先を、  全て消して。  入っていたサークルも、  去年、やめて。」 ゆっくり動く彼の手を、 ぼんやり映しながら。 「…あと私、  自分が、  解離性健忘ぽいと思っていて。  ……サークルをやめるまでの  今までの記憶が、  すごく、……曖昧で。  思い出そうとすれば、  …断片的に、  なんとなくは、  思い出せることは…あるんですけど、  …でも、  人の顔とか、名前とかは  思い出せなくて。  基本的には、  それを思い出そうとすると、  …頭が痛くなる、というか、  嫌な気分になるので、  …思い出さないように、  しているんですけど…」 ぼんやりする頭で、 言葉を、浮かべていき。 「…それで、  サークルをやめてから、  嫌なものから、離れて、  楽には、感じていたんですけど。  …同じ学科の、  同じサークルだった子が、  サークルの話を、  楽しそうにしているのとか、見たり。  …同じ学科の人が、  高校とか、中学の友達と、  遊んだりしたことを、  楽しそうに話すのを、見たり。  …自分の弟と、  仲良さそうに、  メッセージのやり取りをしている  話を、聞いたり。  ……1人暮らししている人が、  …『早く実家帰って、    親の作るご飯食べたい』  とか、  …『家族に会いたい』……とか、  言っているのを、聞いたり。  …そうしているうちに、  …私は、今まで、   辛いものから、   離れて、   忘れて、   辛いのを、   なかったことにしようとして、     楽な方へ、逃げていて。  …その、楽をした分、  周りの人みたいな、  …友達も、   家族も、   …持って、いなくて。   ……私は、    何も、持っていないのだ、  …ということを、実感、して。  そんな自分が、  …虚しくて。  ひどく、  ……劣っていると、感じて。」 「…それで、なんか、  すごい、気分が暗くなって。  何かも、どうでも良くなって…。  …それで、鬱病になった  という感じです。」  そうして、 低く、言葉を出し終えると。 目の前の、フォークの手が、 止まって。 「……なんで、  その…  昔のこと、忘れたり…  家出たり…  サークルやめたり…  したんですか?」 彼が、ぼそぼそと、 控えめな声を、投げてきた。 それに、私は、 「……本当に、   …辛かったから…ですね。」 小さく、答えていく。
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