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「───……っ」
目を覚ました時に見えたのは空だった。綺麗な青空ってわけじゃなかったけど、自分が雲に覆われた空を見上げていることを理解して響は慌てて上体を起こした。
途端にずり落ちたのは男用のダウンだった。見覚えのあるそれを見て、響はハッとして辺りを見渡す。ここはさっきの工事現場だ、だけど響以外誰もいない。このダウンの持ち主の姿さえも。
「………っく……うっ、うぅ…」
響はダウンを抱き抱え、顔を埋めて泣き出した。思いやりで掛けてくれたんだろうダウンも今は悲しみしか与えてくれない。これの持ち主の温もりはもう残ってはいなくて、微かな彼の匂いがより感情を刺激して涙に勢いを加えてくる。
「……夜道っ……夜道ぃ…!」
「泣いてんのに押し付けるなよ、濡れちまうじゃねえか」
「…………………………………………………、夜道ッッ!!?」
「うおっ」
後ろに立っていた夜道はガバッ!!と振り返って叫んだ響に驚き飛び上がった。
「あ……えっ、な、なんでここに…?」
「はぁ?気絶したお前一人置いて帰れるわけないだろ?お前が目を覚ますまで待っててやったんだよ。寒空の下も可哀想だからってことで結界術張って寒さを緩和させてな」
「…そ、そっか……てっきりもう二度と会えないと思っちゃったから…」
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