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初めてだった。
いつもの日常、つまらない学校で嫌々授業して、休日には自堕落を尽くして、なんの変化もない平穏な日々がこんなにも恋しく感じてしまうのは。
知らなければ恋しくもなかっただろう。自分の見ていた日常がどれだけ幸せで恵まれた環境にあったのかも気づけなかっただろう。
しかし、もう遅い。
すでに自分はこの平穏な日常から外れてしまっている。
―――白く舞う吐息に目が眩む。
いたはずの場所が遠い。刺激が欲しいなんて思っていた自分が哀れで仕方がない。
―――肌に刺さる冷気が痛い。
行き合う人々は何も知らない。今のこの日常がやがて根底から砕かれることになるなんて微塵も気づかない。
―――聞こえる談笑に胸が苦しい。
一二月、雲が薄く広がった空の下。改めて自分の置かれた状況がどれだけ異質なのかを実感し、噛み締め、精神がすり減る。
もうじきクリスマスが迫る。世間は浮かれ、気の早い者はもう次の年を楽しみにしていることだろう。
果たして無事に年を越せるだろうか。そんなくだらない考えはすぐに消滅し、腰かけていたベンチの上で空を見上げた。
「…………あたしは…どうしたらいいのかな……夜道…」
心に穴が空いた一人の少女、高鳴 響(たかなりひびき)はうわごとのように、どこにもいない少年に問いかける。
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