第百九十三回:壁 安部公房作

1/1
前へ
/195ページ
次へ

第百九十三回:壁 安部公房作

 日本のカフカこと安部公房はその巧みな寓意で現代日本の姿をまざまざと描いた。この芥川賞受賞作『Sカルマ氏の犯罪』が収録されたこの作品集もその一つである。安部公房この作品集で壁を決して乗り越えられぬものとして表している。現実世界では劣等生はカンニングもせず偏差値という壁を乗り越えることなど出来ないし、また道具がなければ壁を登って下着を盗む事は出来ない。安部はこの作品集で壁をモチーフにこの現代日本の不条理を最も的確に表している。ズルを出来ないものは壁を越える事は出来ない。安部公房は現代に生きる我々にそんな残酷な現実を突きつけるのだ。
/195ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加